新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

データ覇権三国志の行方

 本書は先月(2022年3月)末に出版されたばかりのもの。例によって著者からの謹呈本である。著者である「国際経済連携推進センター(Cfiec)」は、半世紀前に「貿易研修センター」として設立され、通産省(当時)の指導の下で国際的なビジネス人材育成や海外交流を行ってきた機関。現在は特に経済・技術交流やデジタルデータ流通を通じたグローバル経済発展について研究・提言を行っている。

 

 「Data Driven Economy」の時代にあって、急増するデジタルデータの扱いは企業や産業界の死命を制する。そこでCfiecでは、昨年からデータに関する2つのタスクフォース(TF)を開いて議論を重ねていた。

 

・TF1 デジタルニューノーマルへの環境整備

・TF2 データ利活用と個人情報保護の在り方

 

 長くデジタル政策で一緒だった仲間が昨年このセンターに移り、TF1の座長を務めたことから、私自身もTF1の議論に参加させてもらっている。

 

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 本書は2つのTFの議論をまとめたもので、帯にあるように「DFFT=信頼ある自由なデータ流通」がメインテーマ。この議論の内容に関しては、別ブログで再三取り上げている。例えば、

 

G7でのDFFTの議論 - Cyber NINJA、只今参上 (hatenablog.com)

 

Trusted Web白書(1) - Cyber NINJA、只今参上 (hatenablog.com)

 

 などである。本書で勉強になったのは、私が入っていないTF2の議論。特に医療分野の「個人情報の扱い」が興味深い。医療情報のほとんどは個人情報で、しかも機微情報。しかし「COVID-19」ワクチン開発などでも分かったように、非常に有用な情報である。データの前に医療業務の標準化が必要、ID体系がバラバラ・・・など、他の業界でも悩んでいることが明示されている。

 

 データの重要性は経済だけでなく安全保障の分野にも浸透していて、欧米中の3極はそれぞれデータを囲い込むなど覇権を争う姿勢を見せている。欧州はGDPRをはじめAI規制などいちはやく立法しようとし、米国は巨大ITを利用し、中国もデータガバナンス関連法整備を済ませた。まさに「データ覇権三国志」と言える国際情勢である。

 

 まだ議論の入り口かもしれませんが、関係者には一度目を通して欲しい書です。