新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「Data Driven Society」の解説

 2020年発表の本書は、慶應大学宮田裕章教授の「Data Driven Society」の解説書。筆者は、医学部医療政策・管理学教室の教授で、専門はデータサイエンス。何度かTVでお見かけし、銀髪と鋭い眼光が印象に残っている。

 

 筆者は医学部で一番カリキュラム制約の少ない保健学分野を選び、法哲学憲法学・社会心理学情報工学の講義やゼミにも参加したという。デジタル化のために一番必要とされる「ダブルメジャー人材」である。

 

 「Data Driven Economy」を唱えている僕にとっては、ほぼ全編うなずけることばかりだった。医療データの共有・活用などの実例のほか、憲法学者の山本教授(慶大)、マーケットデザインの専門家である安田准教授(阪大)、法哲学者の大屋教授(慶大)との対談を通じて、幅広くデータ活用の方向性を論じてくれてもいる。

 

        

 

 俗に「データは21世紀の石油」というが、消費財であり使えば無くなる石油に対し、データは共有財でありいくら使っても無くならない。共有すればするほど価値が増すという特徴がある。どんどん集めて(集まってもらって)使えばいいのだが、警戒すべきは「信頼」を失うこと。信頼がないと、利用者も提供者も離れていくからだ。特に市民が危惧する個人情報の扱いについては、

 

・米国 GAFAなど市場価値の創出優先

・欧州 人権としてアクセスコントロール権を確立

・中国 (独裁)社会における価値の実現

 

 となっているが、日本は「第四の道」を行くべきとの主張だ。その具体例だが、

 

1)プラットフォーム<PeOPLe>

 個人を中心としたオープンプラットフォームで、医療分野の例では個人の生涯健康データが集積され、他の人のデータから得られたナレッジも活かして、その人に最適な医療・健康促進策を提案するというもの。

 

2)公益目的のデータアクセス<APPA>

 個々の同意ではなく社会的な同意に基づき、重大な案件で活用する人が分かり粒度をどのくらいとするかを定めて公益利用するというもの。

 

 山本教授との対談の中にあった「認知症の人の過去の行動履歴から、今の行動をアドバイスするAI」などは、面白いアプリケーションだと思った。データ活用を促進することで「最大多数の最大幸福」から「個別最適解の提供による最大幸福」に政策概念が変わると著者たちは言う。

 

 データ活用に信頼を持てない人も、是非本書は読んでくださいね。