新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

トゥームストーンの銃声

 ボストンの私立探偵「スペンサーもの」で知られる作家ロバート・B・パーカー、スペンサーもの以外でも先日紹介したノンフィクション風の「ダブルプレー」のような単発ものをいくつか発表している。

 

https://nicky-akira.hateblo.jp/entry/2020/07/09/000000

 

 これは黒人初の大リーガー、ジャッキー・ロビンソンが登場する話だったが、本書はそれよりもっと古く1879~1880年にかけてのアリゾナ州トゥームストーン周辺での物語である。そう有名な映画「OK牧場の決闘」が、本書のバックグラウンドだ。原題「Gunman's Rhapsody」は直訳すると「拳銃使いの狂詩曲」となる。主人公はワイアットを中心とするアープ兄弟なのだが、彼らも完全な「正義の味方」として描かれているわけではない。ある意味「銃に魅入られた男たち」の物語だ。

 

 「勧善懲悪」式の映画では、悪逆非道のクラントン兄弟を中心とするカウボーイたちが保安官ワイアット・アープに敵対してアープ兄弟を傷つけ・殺し、ついに立ち上がったワイアットや友人のドク・ホリディがOK牧場で彼らを倒すというストーリーだった。

 

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 ストーリーテリングの名手である作者は、当時の西部の状況を単に男たちの「無法」や「抗争」ではなく、「家族」を中心に据えて生き生きと描写した。鉱山で栄え始めたトゥームストーンには、噂を聞き付けた流れ者たちがやってくる。それは男も女もだ。ようやく定住できると喜ぶワイアットの兄ヴァージルと妻のアニイだが、ヴァージルは散弾を受けて左腕が使えなくなってしまう。

 

 ワイアットも女優のジョージィと親しくなるのだが、彼女はビーハン保安官の婚約者だった。これを恨んだビーハンは、様々な形でアープ兄弟に危害を加えようとする。その手先に使われたのがクラントン兄弟や、ワイアットとは親しかったジョン・リンゴウ。連邦保安官となったワイアットはクラントン兄弟ろの戦いを制するのだが、ビーハンの意を受けた暗殺者は、ワイアットの弟モーガンをビリヤード場で射殺する。ドク・ホリディ(歯医者だったらしい)は、モーガンの死に涙してウィスキーをあおる。何につけても男たちは呑み、タバコをふかす。

 

 作者のノンフィクション風作品は、非常に質の高い読み物です。抑えた筆の間にハードボイルドの格調があって、もっと探してみることにします。