新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

脳を組み込んだ戦闘航空団

 本書は以前「ロシアの核」や「空爆指令」を紹介した、航空冒険小説作家デイル・ブラウンの2002年の作品。作者のレギュラーであるマクナラハン将軍ものとは別の「ドリ-ムランド」シリーズの第二作にあたる。

 

 「ドリームランド」は、ネヴァダ砂漠の中に位置する秘密空軍基地、ここでは公に出来ない兵器の開発や実験、訓練が行われている。前作(まだ手に入れていない)「砂漠の機密空域」に続く作品だが、その前提だった政権(共和党かな?)が倒れ、大統領や軍のTOPは入れ替わる中、ここでのミッションも変わることになる。

 

 実用実験中だったのが、B-52を強化して司令機能を装備したEB-52/BX-4メガフォートレス。4機の無人戦闘爆撃機フライトホークを搭載、指揮下における。またロシアから入手したMig-29フルクラムの改造型も実験中で、フライトホークは下半身不随になったストッカード少佐が操り、Migはスミス少佐が搭乗して模擬空戦を行っている。

 

 しかし政権交代の余波でMig改修は棚上げに、逆に棚上げされていた「ANTARES」計画が復活する。この計画は人間の脳を直接操縦系統につなぐもので、ある種のハイブリッド兵器だ。計画は無謀だと考える「ドリームランド」のバスチャン司令官も、やむなく実験再開を認める。

 

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 被検者にはIQが高く、使用する薬物に耐えられる頑健な心身の持ち主が必要。必ずしも操縦能力は必要ない。テストに合格したのは、陸軍大尉のマドローンだった。マドローンとストッカードは、個別に「ANTARES」の訓練を始める。乗り移って手足のように軍用機を動かすことができるから、ストッカードは足が動かせるようになるのに近い感慨を味わう。

 

 一方マドローンは順調に訓練を進め、メガフォートレスと複数のフライトホークを、コンピュータの助けを借りてだが自ら操れるまでになる。しかし彼の精神状態に影響が出始め、幼くして死んだ娘の幻影が付きまとい始める。マドローンは娘の死は軍の陰謀だと思っていて、そこに付け込んだ某国がマドローン毎メガフォートレス&ホークを盗んで、米国に原爆を降らせようとする。

 

 SFに近いような軍事スリラーで、今なら薬物投与した人間の脳など使わずAIで処理するような話。それでもリアリティある空戦、空爆シーンは作者の真骨頂でしたね。