新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

Mig-21 vs. F4C

 ヴェトナム戦争というと、北ヴェトナム軍のゲリラ戦・米陸軍や海兵隊の死闘・村を焼き払うなどの残虐行為・降ってくる枯葉剤など地上の戦闘や悲劇ばかりが思い出される。米国はこの戦場で5万人以上の犠牲者を出し、以後大規模な地上戦闘を嫌うようになる。

 

 ただ空では状況が異なり、B52の戦略爆撃は北ヴェトナムの街を破壊したし、空戦は米軍側の圧勝だと思っていた。しかし本書によると、戦争の初期には少数のMig編隊によって、米空軍も悩まされていたとある。ホー・チ・ミンの軍隊は、ソ連や中国からの支援を受けていた。その中身にはジェット戦闘機や空対空ミサイル、さらにパイロットまで含まれていた。まあ太平洋戦争前、蒋介石軍に米国の航空義勇兵(Flying Tigers)がいて、日本軍と戦ったこともあるから不思議ではないが。

 

 1966年9月、米国の第八航空群はタイ東部に航空基地を設け、北から南へとつながる北ヴェトナム軍の兵站線を攻撃していた。当時は北ヴェトナム軍の航空基地などを攻撃してはいけないという縛りがあり、本来は圧倒的な航空戦力を持ちながら北ヴェトナム軍のトム大佐(通称:ドラゴン)率いるMig編隊に手を焼いていた。

 

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 兵站路を空爆するF105の編隊を護衛するF4Cだが、どこからともなく来襲するトム大佐のMig-21やMig-17によってF105もF4Cも撃墜・撃破されていたのだ。事態を打開するために第八軍のウボン基地に着任したのが第二次世界大戦朝鮮戦争を戦った歴戦のパイロットアダムズ大佐(通称:イーグル)である。大佐はだらけた第八軍のカツを入れ、自ら操縦桿を握って前線に飛び出してゆく。

 

 いくら北ヴェトナム軍とはいえ、ほぼMig-15は退役済み。トム大佐は慣れたMig-17を愛用しているのだが、超音速の新鋭機Mig-21をソ連のアーコフ大佐は盛んに勧めてくる。それを嫌っていたトム大佐だが、不時着したF4Cの操縦席を見てハイテクの重要性も理解した。

 

 この二人(竜と鷲)の闘いが本書のメインストーリー、ハイライトは米軍「ボロ作戦」の戦闘経緯である。「鷲」は罠を仕掛け、新鋭機Mig-21を16機率いる「竜」を、F4C60機以上で包囲殲滅を計る。

 

 ドギュメンタリーなので、多少の脚色はあってもその迫力はリアリティを伴ってなかなかのものである。あまり縁のなかったヴェトナム戦争の空の闘い、面白かったです。