新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

幼馴染の女医、没落貴族そして警部

 作風をカメレオンのように変える女流作家ポーラ・ゴズリング、全て水準以上の作品ばかりでアクション・ラブサスペンスから本格ミステリーまで変身を繰り返している。発表時系列に読んできて、本書が第七作。前作「モンキー・パズル」から警察小説っぽい雰囲気が出てきているが、本書もその傾向がある。

 

 舞台はようやく作者の住む英国に戻って、コッツウォルズの田舎町<ウィッチフォード>。ロンドンから列車で2時間ほどとあるが、朝夕に4往復しか列車はやってこない。若い人たちは都会に出て行ってしまい、自然は美しいが高齢化が進む町だ。

 

 大規模な写真現像所で働く中年の掃除婦が、深夜に後ろからノドを切られて死んだ。鋭利な刃物で一撃、かなりの腕のいい犯人らしい。地域警察本部から派遣され事件を担当するのは、リュークアボット警部。実はこの町の出身で、久し振りの里帰りになった。掃除婦が通っていた診療所の女医ジェニファーも、ロンドンからのUターン組。伯父が病気で診療が出来なくなり、パートナーの医師グレグソンだけでは診療に手が回らないので戻ってきたところだ。

 

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 また現場近くの大邸宅に住む元貴族マークは、母親メイベルが持つ資産管理のために町を離れられずクサクサしていた。マークの父親は死んで貴族時代の遺産を残したのだが、メイベルは再婚。大邸宅だけに維持費もかかり、マークは土地を切り売りしたいのだがメイベルが許さない。

 

 この町は自然環境がいいので、都会から芸術家の卵たちが流れてくる。若手の女流陶芸家ウィンが、やはりノドを切られて死んだ。独身のウィンだが、奔放(淫乱?)な性格でこの町に来てからも1ダース以上の男と関係しているらしい。中年のまじめな掃除婦、若く美しい尻軽女、どこに共通点があるのか捜査陣は悩む。さらに3人目には、メイベルがノドを切られた。

 

 リューク、ジェニファー、マークの3人は実は幼馴染。10歳代前半に離れ離れになっているが、思わぬ再会となった。かつては貴族風を吹かせるマークをリュークがぶん殴ったこともある。マークはジェニファーに交際を申し込むのだが、ジェニファーとリュークも接近しつつあった。

 

 微妙に揺れるリュークとジェニファーの心と、冷酷な連続殺人が並んで描かれる、ラブサスペンスの色合いのある警察小説でした。作者のモチーフがやや落ち着いてきたようですね。