新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

殺人者の肖像

 ルース・レンデルは背筋の寒くなるようなスリラーを得意とする女流作家、代表作が本書「ロウフィールド館の惨劇」(1977年発表)だが、他にも質の高い諸作を残しているという。ただ僕はこれまで読んだことはなく、多くの書評では本書を高く評価していたので、買ってはみた。しかしなかなか読み出せずにいた。

 

 というのは、僕自身はサイコ・サスペンスは好きではないし、表紙裏の作品紹介コメントにすでに犯人の名前も動機も書いてあるというのはどうにもいただけなかったからだ。買ってから1年ほど迷っていて、今回ついに読み始めた。イギリスの田舎町、町中の誰もが知り合いで噂はあっという間に町中に広まってしまう。そんな町の豪邸ロウフィールド館に住むカヴァダイル家に新しい家政婦がやってきたことで、惨劇の幕が上がる。カヴァダイル家はアッパーミドルと紹介されているが、暮らしぶりは下級かもしれないが貴族のもの。

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 家政婦のミス・ユーニス・パーチマンは50歳近い太った女、口数は少ないが手先が器用でだだっぴろい館の隅々まで磨き上げてしまう掃除好きだ。不愛想な彼女に不信を抱く家人もいたが、みなその働きぶりには感謝している。しかしユーニスにはだれにも知られたくない秘密があった。それは彼女が貧困層の生まれでろくに学校に通えなかったため、文盲であること。

 

 彼女は介護していた父親からなじられたことに腹を立て、父親を枕で窒息死させて自由を得、ロウフィールド館で働くようになる。父親の死は自然死として処理された。ユーニスの仕事ぶりに申し分ないと思っていた一家の人たちも、彼女に残したメモが処理されないことが度重なり不信を強める。ユーニスは視力のせいにして眼鏡を作るなど偽装工作をするのだが、ついに娘のミランダに文盲であることを知られてしまう。

 

 ユーニスへの家族の不信とユーニスの緊張感が徐々に高まるプロセスを、作者は熟練の筆致で描きサスペンスを盛り上げる。スローな序盤のペースが急に早まる200ページ以降の展開は、読者に息をつかせない。そして主人愛用の猟銃を手にしたユーニスは、秘密を知った人たちに向けて引き金を引いた・・・。

 

 確かに背筋が寒くなる作品で、すごみは感じたもののこういうミステリーもあるのだということを確認した。その上で好きになれるかという問いには、微妙と答えることになりそうだけど。