新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

迷える子羊が歩く美食の道

 昨日「添乗員が参照するヒミツの参考書:魅惑のスペイン」を紹介した。面白かったのだが、バスク地方を始めとする北スペインの記述がないのが、残念だった。そこで、ちょっと趣旨は違うけれど北スペインを歩いた記録である本書を探してきた。著者の小野美由紀氏は現在フリーライター、大学卒業後会社勤めでパニック障害を発症、自分を見つめ直すために800kmに及ぶ道を歩く旅に出た。

 

 カトリック三大聖地のひとつが、スペイン北西部にあるサンチアゴ・デ・コンポステーラ。ここを終点とした何本もの巡礼路があるのだが、そのうちフランスのピレネーの麓サン・ジャン・ピエ・ド・ポーから伸びるのが「フランス人の道」。

 

 筆者が歩いた2014年以前に、2本の映画(サン・ジャックへの道、星の旅人たち)が人気を呼び、欧州各国からだけでなく米国やブラジルからも巡礼希望者がやってくるようになったとある。スペイン語もわからないで800km歩くなんて・・・と思う向きに筆者は、7つの魅力を示してくれる。

 

        

 

1)宿が激安、費用が掛からない

2)ごはんが美味しく、低コスト

3)世界中の人々の多様な人生観に触れられる

4)ダイエットにも最適

5)巡礼路は世界遺産だらけ

6)語学が上達する

7)自分と対話する時間が持てる

 

 のだそうだ。出発点でクレデンシャルという巡礼証明書を貰い、巡礼路のアルベルゲと呼ばれる宿泊施設で夜を過ごしながら行けば、15ユーロ/日ほどの出費で賄える。筆者は35日かけて、山道・食当たり・靴擦れなどに悩まされながら歩きとおした。途中、就職に悩む韓国娘、離婚して子育て中のスペイン女、知的障害の兄を連れたブラジル青年、夫を亡くしたばかりの米国老婦人などと知り合い、はげましあって巡礼を続けた。

 

 歩き方にもお国柄が出るようで、イギリス人やドイツ人は早朝から夕暮れまで生真面目に歩く。フランス人やイタリア人は朝も遅く、夕方も早々に宿に入りワイングラスを傾けて大はしゃぎする。美食の州バスクを通るし、その周辺も海の幸・山の幸満載の美食どころだ。蛇口をひねればワインがでてくるほど、お酒も安い。

 

 筆者にとってこの旅は「捨てる旅」だった。世間のしがらみ、自分の固定観念、忘れられなかった思い出など、大自然の中で自分を見つめなおせた結果、これらを捨てられたという。

 

 僕は特に捨てたいものはないですが、ちょっとだけ追体験させてもらってもいいですか?