新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

反緊縮加速主義の提案

 本書は以前「人工知能と経済の未来~2030年雇用大崩壊」を紹介した、新進の経済学者井上智洋准教授の最新(2021年)研究。「人工知能・・・」で、AI時代にはBI(ベーシックインカム)が必要との主張をしていた筆者は、その後の「COVID-19」禍で、2030年に来るべきものが早まったので今BIを導入すべきと考えるようになった。加えて種々の社会構造の変化も考えて、新しい社会を「反緊縮加速主義」に進めるべきだと提案している。

 

汎用AIが登場した後の経済政策 - 新城彰の本棚 (hateblo.jp)

 

 2019年から米国のストックトン市で2年間行われたBIの実証実験はじめ、BIに関する議論や実験は世界中で進められている。筆者はBIを3種類あるとしている。

 

1)代替型 既存の社会保障を全廃する

2)中間型 社会保障のあるものは残し、他は廃止する

3)追加型 既存の社会保障は残したうえで、BIを追加する

 

 例えば新自由主義(維新?竹中教授?)派は代替型を主張しているが、多くのBI論者は既存社会保障をある程度残すべきと考えているという。筆者自身は、導入にあたっては追加型にしないと反発が強く、実現できないだろうとのスタンス。

 

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 まず3万円/月からでもいいから始め、徐々に金額を上げていけばいいということ。その際に、不要となった社会保障を廃止する考えだろう。では財源はというと、一部は富裕層の所得税増税だが、基本は国債によるヘリコプターマネーだという。MMT論者とは一線を画しているが、当面極端なインフレを招かない限り財政健全化は必要ないとしている。

 

 面白かったのは「地球温暖化で何が悪い」という主張。人類は何度か寒冷期に襲われ、その時代には人口減などで苦しんだ。温暖な時期には順調に経済成長している。筆者の目指す「反緊縮」は分かったとして、「加速主義」とは何かと言いうと要は自動化。AIを含む自動化で人間のエッセンシャルワークを削減、人間はインカムを心配することなくやりたい仕事をするというもの。

 

 一般に人間と自動機械では後者のCO2消費の方が多いので、CO2削減に血道を上げなくてもいいということらしい。前著の「AI時代にはBI導入」のスタンスは変えないが、理論的裏付けなどで成長した論説になっている。ただ、僕はどうしても「財政健全化」も必要だと思いますがね。