新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ゲゼルシャフトが残る日本

 2022年発表の本書は、経済評論家加谷珪一氏の日本経済(社会)のそもそも論。筆者のWeb上の論説は時々参考にさせてもらっていて、論理的な思考のできる人だと思っている。書籍としては2年前に「貧乏国ニッポン」を紹介している。この書は日本が安い国になって経済が停滞していることを打破するために、サラリーマン社長の一掃や社内失業の解消、M&A促進などを訴えていた。

 

 本書は、上記企業の改革では十分ではないと見たのか、社会全体の改革論になっている。日本経済低迷の原因は、実は日本社会が近代化以前の段階にあるというのが筆者の分析。古代の自然発生的なローカル社会はゲゼルシャフト、地縁・血縁・情実などの人間関係が中心になったタテ型のムラ社会だ。近代の資本主義・自由主義社会は、目的(企業なら儲けること)をもって集まったヨコ連携の合理的な社会ゲマインシャフト

 

        

 

 高度成長期したのは、日本社会がゲマインシャフト(近代)化したからではなく、純粋に輸出が伸びたから。依然多くの組織はゲゼルシャフトのままだという。だから、ちょっと目立つことをした人は叩かれるし、同調圧力も強い。二言目には「自己責任・自業自得」と言われる。その結果、

 

・若者の満足度は米国の1/5

・若者の自殺率は独仏の2倍

・自由だと感じる人はフランスの1/7

 

 という息詰まる(生きづらい)社会になっているという。輸出依存の経済が終わった時、本来は消費経済に移行しなくてはならなかったのにそれができなかった。その理由は、隣人が儲けて派手に消費するのを見ると足を引っ張りたくなる「底意地の悪さ」いあるという主張。本来投資して儲けるべきだが、そうすると何もしない人も(少しは)儲ける。それが嫌だから、自分も投資を止めて儲けも諦めるという行動様式。

 

 確かに、こういうのは僕も感じましたね。勤めていた企業が、最初はゲゼルシャフトだったのに、後にゲマインシャフト型に変わってくれたのが救いでした。