新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

大西洋上でのチェスゲーム

 1956年発表の本書は、同名の有名な映画の原作である。大西洋上で特命を帯びたUボートと、哨戒中の対潜駆逐艦の1対1の対決を描いたものである。作者は両艦の艦長を中心に、Uボート駆逐艦の主に司令室でのアクションを交互に描いていく。

 

 映画でクルト・ユルゲンスが演じたU-121の艦長ペーター・フォン・シュトールベルグ少佐は古い貴族階級で、ナチス党員ではない。部下のヒトラーユーゲントの挙動には眉をひそめながら、貴重な情報を入手した通商破壊艦と邂逅するため大西洋を南下する艦の指揮を執っている。この情報を本国に持ち帰るために、特にブレスト(ドイツ占領中)から出港してきたのだ。U-121はⅨC型Uボートの1隻で、下記仕様で造られている。

 

 水上排水量 1,120トン

 最大速力 水上:18.3ノット 水中:7.3ノット

 安全潜航深度 100m

 兵装 魚雷発射管6 10.5センチ砲 37mm機関砲 23mm機関砲

 

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 映画でロバート・ミッチャムが演じた駆逐艦ヘカテのジョン・マレル艦長は、歴戦の勇士と言うよりは雇われ船長のようだ。もちろんこのころ、英国海軍は人材不足に悩んでいる。ヘカテそのものも前の大戦からの旧式艦を改造したもので、おおむね下記の仕様を持っていたようだ。

 

 排水量 1,304トン

 最大速力 35.3ノット

 兵装 12.7mm砲2 爆雷100余

 

 第一次大戦以来の旧式駆逐艦から、魚雷兵装や主砲2門を除いて爆雷を沢山積んだ対潜駆逐艦である。この2隻が大洋上で出会い戦うことになるのはやむをえないことだ。著者の前書きにあるように、このようなシチュエーションで同じくらいの排水量のフネが単独で戦った記録はない。

 

 全くの偶然だが、南へ向かうU-121のレーダー映像をヘカテが捉えたのが物語の始まり。針路210を頑に守る相手にヘカテは爆雷攻撃を試みるのだが、両ベテラン艦長の相手を読む能力は、まさにチェスゲームの様相を呈してくる。これは実際になかったとしても、あり得た話です。昔の映画とは少し違った結果なのですが、懐かしい思いに満たされた本でした。