新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

米中覇権争いとデジタル産業

 2019年発表の本書は、激化する米中対立のなかでヤリ玉に挙がった中国企業(特にHuawei)と、5Gを巡る各国の思惑をレポートしたもの。著者の近藤大介氏は講談社の中国支社長を経験したジャーナリスト。深圳を始めとする、中国デジタル産業の内懐に入ったルポがヴィヴィッドである。

 

 本書によれば就任当初は習大人からのプレゼント(米国への投資や、米国からの輸入増)に喜んでいたトランプ先生だが、政権内の強硬派の入れ知恵で<5G戦争>に突入したという。強硬派には、貿易不均衡是正目標とする派と社会主義国の台頭を許さない派がある。

 

 彼らに共通するのは、中国叩き。特に次世代の通信を仕切ることになる5G技術や関連製品を叩くことにした。まず米国の公的機関が次の5社の製品を使うことを禁じた。

 

        

 

Huawei 世界最大の通信機器メーカー

・ZTE 世界4位の通信機器メーカー

・ハイテラ 世界最大の無線メーカー

・ハイクビジョン 世界最大の防犯カメラメーカー

・ダーファ 世界2位の防犯カメラメーカー

 

 筆者は中国の現地に取材し、Huaweiの任CEOの姿勢や従業員のモチベーション、技術力の高さや設備の立派さを伝えている。世界最大になったのは当然と言いたげだ。筆者の主張は「立派な企業を米国が我欲で叩いた、こんな米国の横車に日本は乗るべきではない」ということ。

 

 もっぱら産業政策に関する分析や批判が中心で、中国企業が「バックドアを製品に仕込むかもしれない」というナショナルセキュリティの論点は、ほんの少し書かれているだけ。デジタル産業論でも中国のBATがさらに成長すると言っているが、その予測は外れている。

 

 少し踏み込みの足りない結論でしたね。冒頭産業人が言う「Huaweiはいい会社、だけど中国の会社」というのが全てを表しています。また期待したHuaweiの5Gアプリケーションもスマートシティ程度しか紹介されていませんでした。ちょっと残念。