新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

イスラム教シーア派の主導国

 2021年発表の本書は、共同通信社で2年間テヘラン支局長を務めた新冨哲男氏のイランレポート。イランはシーア派イスラム教徒の主導国で、イスラエルを攻撃している<ハマス><ヒズボラ><フーシ派>の後ろ盾である。

 

 紀元前550年、この地にアケメネス朝ペルシアが興きたが、アレキサンダー大王東征で滅亡、後のペルシア人王朝も外来のアラブ人やモンゴル人に滅ぼされた。近代では英国の支配を受け、ロシアにも浸食されている。

 

 同じイスラム国家でも、サウジアラビア(アラブ人)は多数(*1)を占めるスンニ派で、敵対している。サウジの精油施設をイランが攻撃したこともある(*2)。制裁を続ける米国を敵視し、核開発を進めてきたのだが「米イラン核開発合意」で、一時期制裁が緩和される。その時、デジタル産業を含めて経済が上向いた。本来は石油資源もあり、人口も多く豊かになれる国なのだ。

 

        

 

 しかしトランプ政権の核合意離脱、制裁再開で、経済は再び低迷した。保守強硬派のライシ師が大統領に再選されて、対米対立意識は高まっている。ヒジャブのかぶり方などを取り締まる「モラル警察」が横行、犠牲者も出ている。厳しいシャリーアの掟に沿って、死刑も多い(*3)。一方市民は「上に政策あれば、下に対策あり」で、

 

・法外な値段だが、アングラ酒場や酒の密売はある

・女性の肌の露出は厳禁だが、一歩室内に入れば一変する

 

 という次第。SNSなど新しいコミュニケーション手段の普及で、国内外から政権や宗教指導者には困った情報が流れるようになり、これを取り締まっているがいたちごっこ状態にある。

 

 市民感覚はよくわかりましたが、中東情勢に影響する「何か(*4)」は得られませんでした。ちょっと残念。

 

*1:スンニ派9対シーア派1の人口比率

*2:その後中国の仲介でサウジとイランは宥和したが、ガザ紛争で再び暗雲が漂っている

*3:中国に次ぎ、死刑数は第二位

*4:例えば「イスラエルは存在自体認めない」としている意識の源など