新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

この国はやはり平和

 本書は2003年に「別冊宝石」が特集した記事を文庫化したもの。近代日本で起きたテロや暗殺事件、合計42件がコンパクトに写真入りで解説されている。1909年の伊藤博文暗殺事件に始まり、1995年の地下鉄サリン事件まで、80余年間を網羅している。2・26事件のような有名なものから、昭和天皇がパチンコ玉で撃たれた(玉は外れる)事件まで集めても42件、2年に1度しか起きていない。これは日本がいかに平和で安全な国かの証明になろう。時代別に事件を見てみると、

 

◇1909~1929年

 昭和恐慌以前は6件。張作霖爆殺事件・山本宣治事件・大逆事件・朴烈事件など政敵や左翼運動家を対象に、軍部・官憲が仕掛けたもしくは誇大に宣伝したものが目立つ。

 

◆1930~1945年

 日中戦争から敗戦までは15件。ほとんどが軍部からみで、2・26、5・15のような大規模なものから、未遂に終わった東条首相や満州国皇帝の暗殺計画まで。

 

◇1946~1961年

 戦後の混乱期は6件。黒い霧(下山・三鷹・松川)事件のように謀略説があるも迷宮入りしたものや、政治家暗殺事件が目立つ。

 

◆1962~1975年

 復興・高度成長期は9件。三島事件のような右翼のクーデター計画がある一方、あさま山荘事件よど号事件など左翼の暴発もあった。連続企業ビル爆破事件のように凶悪化したのが特徴的。

 

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◇1976~1995年

 戦後経済の爛熟期は7件。朝日新聞阪神支局襲撃など単発的な凶悪テロが散見され、最後はオウムの組織的犯罪に至る。頻度は減っているが、手口は巧妙・過激化しているといえよう。

 

 政治家、特に首相や野党のTOPはやはり狙われる。社会党浅沼党首を殺したのは10歳代の少年、安倍元総理のお祖父さん岸総理も、パーティ会場で暴漢に刺されて負傷している。ただ思想的な事件は、1993年の野村秋介朝日新聞に押し入って自決した事件で幕引きとなったように思う。野村は「新右翼」のリーダーで、三島由紀夫の遺志を継いだが、それを継ぐ者はいないようだ。

 

 戦前もだが、米国ほど巷間に銃器がないせいで、日本のテロは小規模に終わっているし頻度も低い。僕は、平和な国に生まれてよかったと思っていますよ。