2016年発表の本書は、建築家森山高至氏が自戒を込めて建築業界の課題を公表したもの。冒頭、東京オリ/パラのための新国立競技場の話が出てくる。一旦採択されながら廃案となったザハ・ハディド案は、そもそも建設不能だったという。彼女は「Unbuilt Queen」とあだ名されていて、構想・設計はできても実際には建たない建築家だとある。建築家には3通りあり、
1)町の普通の建築家(住宅などを手掛ける建築士資格保持者)
2)個々の建物だけでなく、街全体や社会の仕組みも設計する建築家
3)外観、意匠にこだわる表現建築家
ハディド氏は3)の典型だが、ミニ・ハディドは一杯いて、多くの公開コンペに応募してくる。その結果、費用が浪費されているという。建築家は新規や建て替えを勧めるが、建物は時代と共に場所に馴染み価値が上がるので、必要がない限り「改修」が正解だとある。
この本を買った動機は、土建業のDXのヒントをつかみたかったから。著者は工学部の中でも、建築学はイノベーションが少ない分野だという。技術は他分野(特にIT)に比して伸びが鈍く、意匠で変化を付けざるを得ない面がある。
現場の技術についても、学問よりは職人の口伝や経験によるものが重要で、徒弟制度が残るのもやむを得ないという。今も真の現場は派遣法対象外だが、事務作業として設計・積算・管理などは派遣OKになっているのが、現場力を弱めた。筆者が派遣NGという理由は、成果がすぐに見えない業界だから。成果が見えるなら派遣でもいいが、50年後でないと品質が見えないなら個人ではなく施工業者が責任を持つべきだからとある。
ではどうすればいいのかというと、現状の報告書に頼るやり方ではなく、作業自身の標準化だとある。誰がやっても、いつ引き継いでもいいようにするのだ。標準化はデジタル化の基本でもあります。違う経路でイノベーションを考え、僕も筆者も結論は標準化だったことは、意義深いです。