新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

直木賞に輝いた短編

 2ヵ月前、大家藤沢周平の作品を初めて読んだ。歴史小説はあまり読んでいないのだが、さすがに凄いなと思った。そこでもう1冊、短編集を買ってきた。本書には、「オール読物」に1971年から1973年までの間に発表された5編が収められている。

 

 この中の4編が立て続けに直木賞候補になり、ついに表題作「暗殺の年輪」が直木賞を受賞している。海外のミステリー賞にはわりあい詳しい僕だが、実は芥川賞直木賞の違いもよくわかっていない。ただ面白いかどうかだけは、翻訳ものミステリーや軍事スリラーばかり読んでいる人間にもわかると思う。

 

 「暗殺の年輪」は、江戸時代の小藩で20余年にわたって権勢をふるう家老を暗殺するよう命令された若侍の話。彼が物心つく前に、父親は事件を起こして死んでいる。大事件だったようだが、彼の家は多少の減俸で生き残っている。何とも不思議な話だが、若侍には誰も真相を教えてくれない。

 

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 一方その家老は、財政危機だったこの藩を大手の商人を使って立て直したという自負がある。しかし反対勢力は、藩の魂を商人に売っていると見える。最初は暗殺を断った若侍だが、20年前その家老の暗殺を謀って果たせなかったのが父親だと知って剣をとる。家族の過去と向き合う純粋な魂を、ち密な筆で50ページにまとめている。

 

 僕はもう一編、「ただ一撃」を気に入った。戦国時代が終わったばかりの時代。腕自慢の武芸者が仕官を競っていた。ある藩にやってきた大兵の武芸者は、藩の若手を簡単に打ちのめす。しかしなにを思ったか、藩主は次々と藩士を繰り出し、ついに4名が不具の身となった。後日もう一人立ち合わせることで、その日の試合は終わった。

 

 家老たちは藩の腕利きを探すのだが、白羽の矢を立てられたのは60歳すぎの老人。嫁に鼻水をぬぐってもらい日向で茶をすすっているだけ。耳も遠くなっている。ただ20年前には、藩主の前で試合をし勝って仕官を遂げていた。先月読んだ「秘剣」テーマの短編集でもあったのだが、まさかと思うような侍が恐るべき剣をふるう。この老剣客もそうで、鮮やかな変貌を見せる。

 

 さすがに藤沢周平の作品は、ひとつひとつに魂がこもっているように感じました。また探してみることにしましょう。