新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

忍耐強いスペンサー

 ロバート・B・パーカーの「スペンサーシリーズ」も本棚に残っているのは本書(2009年発表)を含めて2冊だけ。作者は2010年に急逝し、40冊のスペンサーものが遺された。この後には2冊しか発表されておらず、そのうちの1冊「盗まれた貴婦人」は僕が手に入れることが、まだできていない。

 

 ハロウィンの頃に始まった事件は、バレンタインデーの頃まで、おおむね一冬続く。ボストンはニューヨークよりも北の街だから寒いかと思うのだが、そのような記述はない。いつものようにスーザンとの愛の巣でいろいろな料理とお酒(サミュエル・アダムズの冬季限定エールが出てくる)を楽しんでいるスペンサーのところに来た依頼は風変わりなものだ。4人の若妻の代理人としてやってきた女性弁護士は、4人が皆金持ちの年の離れた夫を持ち、同じ人物と不倫しているという。

 

 その4人以外にも不倫相手を持っているという、「絶倫男」の名前はゲーリー。最初の内はただの不倫だったのだが、その4人に対しては脅迫者になり始めている。つまり夫に関係をバラされたくなかったらカネを出せということ。弁護士はスペンサーに、その強請を止めさせてほしいというのだ。

 

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 スペンサーは難なくゲーリーを探し出し、強請から手を退けと言うのだがゲーリーはしらばっくれる。そのうちに妻の不倫に気づいた一人の夫が、手下を使ってゲーリーやスペンサーを脅しにかかる。その夫はギャングに関わるビジネスをしていて、ガンマンとボクサー崩れを飼っていたのだ。

 

 そんなチンピラ2人くらい、ホークの助けが無くてもスペンサーは片付けることができるのだが、今回のスペンサーはかなり忍耐強い。ギャングの親分トニイに仲介を求める時、力業でケリだろうと言われるが「誰かが死ぬような事件ではない。死ぬことは望んでいない」と穏健路線をとる。かつて何人ものガンマンを連れて町に巣くった悪漢を根絶やしにしたスペンサーとは別人のようだ。それにしても、30歳代の妻たちの不倫はすさまじい。今回の事件も全てはそこに端を発し、ついにはギャングも巻き込んだ血なまぐさいものになっていく。

 

 スペンサーの年齢が不明なのですが、終盤の彼は穏健な解決を望みながら、意図に反した事件に巻き込まれていくパターンが目立ちます。本書はそれの典型ですね。