新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

大都会のボランティア警官

 本書(1975年発表)は、「87分署もの」などで知られるエド・マクベインの「ノン・シリーズ」の1作。先月西海岸を舞台にした「ホープ弁護士もの」の「金髪女」を紹介しているが、本書はアイソラではない架空都市での引退警官の活躍を描いたものだ。都市は多分東海岸、というのは主人公スモーク元警部の先祖オランダ人のスモアク家が移民してきた街だとあるから。そこには800万人が暮らし、4つの区があり複数の警察署がある。

 

 48歳のスモークは24年間務めた警察を辞め、今は免許のない私立探偵。引退時に貰った金バッジが、捜査の時に役にたつ。今は女優のマリアと同棲中で、私立探偵として稼ぐ必要は無さそうだ。警察を辞めた理由は「つまらなかった」から、完全犯罪を狙う犯人を捕まえたいという希望があって、警官稼業ではできない相談だった。

 

 だから事件を選り好みするスモークに持ち込まれたのは、葬儀社の知り合いが防腐処理をし葬儀に向けて正装までさせた死体を盗まれたという事件。調べてみると、その夜5軒の葬儀社に何者かが押し入っていた。

 

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 盗まれた男の死体は5フィート11インチ、180ポンドのサイズ。他の4件では犯人の希望に合う死体がなかったらしい。捜査を始めたスモークだが、翌日盗まれた死体が遺棄されているのが見つかる。さらにその日には別の葬儀社で再び死体が消え、防腐処理をしようとしていた葬儀社員が殺された。

 

 12分署のクーペラ署長と協力して殺人事件の捜査をすることになったスモークの前に、自分をクレオパトラの再来と思っている女、縛り首になった魔女の名前に改名した女など、奇怪な人物が現れる。しかし割合大きな男の死体を車まで運ぶにしても、女だけでは難しい。男の存在を探して、スモークたちは「夜の大都会」を歩き回る。

 

 この街では人口の9%、約70万人が黒人で、その大半はスラム街に住んでいる。警官とのいざこざも絶えず、麻薬の冤罪でブチこまれる黒人少年や、黒人警官が普通の黒人女性を売春婦をして挙げることもしばしばだ。

 

 「87分署もの」と比べて刑事たちの性格描写や掛け合いが少ない分、夜の街の生態がより生々しく描かれている。それはわかるのだが、今回の事件も「完全犯罪を企む犯人」というには不十分。このストーリーは「87分署もの」でも十分に描けたと思うのですが。