新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

衣食足り、家族の幸福を

 2022年発表の本書は、以前「中国人のお金の使い方」を紹介したジャーナリスト中島恵氏の近刊。前著はアッパーミドルクラスの中国都市市民の日常と、生活感を描いたものだった。本書は、それから1年経ち、もう少し庶民的な都市部の市民の「ゼロコロナ・共同富裕」政策下の生活を紹介している。

 

 前著も登場するインタビュー相手は仮名だったが、本書では場所など多くの属性データが匿名化されている。中には「次に会う時は別の連絡方法を取りましょう」と言って去った知人もいる。これは、

 

・この1年間で、政府の個人統制が強まった

・筆者がより踏み込んだ質問、取材をした

 

 の両方のように思う。筆者の主張は「日本でメディアが伝える中国人のイメージと実態は違う、一部のニュースしか取り上げられないので、全体が歪む」ということ。

 

        

 

 では筆者の言う実態はどうかと言うと、

 

共産党大会は市民にとってはただのお祭り、権力闘争は雲の上のこと

・国家覇権主義に興味はない。ただ家族の幸福を求めているだけ

・中国政府に不満(*)はあるが、米国のような乱れた民主主義なら要らない

・新疆ウイグルなどの人権問題については、一般市民は全く興味はない

・メディアへの制限はあるが、ネット経由などで知りたいことは知っている人も多い

 

 *)ゼロコロナの厳しい制限、監視政策の強化、不動産価格の高騰など

 

 苛烈な教育戦争は、学校だけでなく家庭内にも大きな負債を残した。勉強さえしていればいいと考える子供が、そのまま大人になってしまうことも問題だ。ただ総じて衣食は足りて生活は充実してきており、1980年代の日本のような高揚感はある。現に日本の昭和への憧れをZ世代は隠そうともしないし、日本語を学びたい若者も増えている。

 

 強面なのは、やはり上層部だけのようです。「タンピン(寝そべり)主義」の若者も増えていても、多くの市民は家族の幸福のため一生懸命働いているとのことでした。