新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ドイツの「どんでん返し職人」

 かつてはミステリーと言えば、英国と米国。あとフランスの犯罪&サスペンスものが少々という印象だった。しかし北欧諸国やイタリアのものも紹介されるようになったが、ドイツのミステリーというのは記憶にない。しかし2006年に「治療島」でデビューしたセバスチャン・フィツェックが、欧州ミステリ大賞(リッパー賞)を受賞するなど、大家として認められつつあるという。

 

 初期にはサイコ・サスペンスを得意とした作者だが、特定の主人公を持たないノンシリーズで徐々に作風を変化させ、本書(2014年発表)は警察小説の色合いが出てきている。ただ、舞台のほとんどはハンブルグ、サザンプトンから大西洋を渡りニューヨークに向かう豪華クルーズ船<海のスルタン号>の内部である。

 

 ベルリン警察のマルティン・シュヴァルツは、囮捜査官。HIV患者になりすますため抗体を注射したり、何ヵ月も刑務所に収監されたりする危険でキツいミッションだ。5年前<海のスルタン号>に乗っていた妻と息子が行方不明になって以来、生活は荒んでしまい他人がいやがる囮捜査を引き受けるようになった。

 

        

 

 今夜も自ら頭を剃り、八重歯をペンチで抜いて悪漢になりすました捜査をして、警察医に「無茶だ」と叱られていた。そこに<海のスルタン号>で、2ヵ月前に行方不明になった少女が発見され、マルティンの息子のテディベアを持っているとの情報が入った。

 

 マルティンは矢も楯もたまらずサザンプトンに飛び、クルーズ船に乗り込む。この船は年間23人の行方不明者を出す「実績」があり、行方不明者のことを「23号乗客」という隠語で呼んでいた。実際航行中に身投げすれば跡形もなくなるので、自殺者は多い。豪華で優雅な船室とは異なり、吃水下のフロアは乗務員の居住区や倉庫、機械室などが入り乱れる迷路のようなところ。船に詳しければ、身を隠すところはいくらでもある。息子の手掛かりを得ようとするマルティンの前に、カネしか頭にない船主、美しい船医、船を知り尽くした泥棒、分譲居室に住む老婦人など怪しげな人物が次々に現れる。

 

 小児性愛や家族の崩壊など、重苦しい事情を背景に、数ページで事態がひっくり返る「どんでん返し」が連続する。これは「ドイツのジェフリー・ディヴァー」ではないかと思った。とても頭の固いドイツ人の作品とは思えません、他の作品も読みたいですが邦訳がありますかね?