新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ジョン・ロックの思想を実現する

 本書は今年「共鳴する未来~データ革命で生み出すこれからの世界(2020年)」を紹介した、慶應大学医学部教授でデータサイエンティストの宮田裕章氏の近著(2021年発表)。前著は何人かの専門家との対談を交えていたが、本書は全てが著者の手になり、より思想的な色を帯びた書に仕上がっている。

 

「Data Driven Society」の解説 - 新城彰の本棚 (hateblo.jp)

 

 17世紀の思想家ジョン・ロックは、民主主義社会を「所有権を持つ個人同士が、相互に社会契約を結び、国家を作る」ようにしたいと考えていた。しかし現実には多くの市民が相互に社会契約を結ぶなどということは不可能で、現在の政府等を選挙で選び、お金を媒介とした契約社会を作って次善としている。これが現在の民主主義&資本主義だ。

 

        

 

 この特徴は、量産すれば効率がいいなどの経済合理性に支配され「最大多数の最大幸福」を目指してしまった。しかし本来はもっとダイバーシティ豊かで、お金に換算できないものの価値も認める「最大多様の最大幸福」社会であるべきだったと筆者は言う。データはそれを可能にするということで、いくつかの例が挙げられている。

 

・中国「芝麻信用」の個人レーティングによる柔軟な融資

・企業や製品のSDGs的価値を含めた値付けや、購入者の価値

・国民全員への特別定額給付金ではなく、困っている人に届く支援

 

 個人レーティングはネガティブに捉えると問題だが、これは運用の仕方であって、ポジティブな使い方にすればいいという。簡単に言えば、加点方式で透明性が高いこと(これは中国では無理だろうが)。

 

 筆者は10年以上医療データの集積や活用についての実践を積んでいて、さまざまな障壁はあるもののデータ共有は個人にも社会にも益があると示している。データ共鳴社会こそ「新しい資本主義・民主主義」だと言う。データは使っても減らないが、信用を失った時無価値になるともありました。そう、信用ですね、全ては。