2021年発表の本書は、名古屋市立大学松本佐保教授(専門は国際政治史)の米国内の宗教事情レポート。プーチンの支持勢力にロシア正教、トランプの支持勢力にキリスト教福音派がいることは、よく知られた事実。本書はもう少し深堀して、米国政治に宗教がどう関わっているかを示している。
米国市民の大半はキリスト教徒だが、プロテスタントとカトリックだけでなく細かな分派で区別される。共和党でも民主党でも、大統領になるにはプロテスタントであることが重要。設立がWASPの国だから当然だが、例外がケネディとバイデン。2人はカトリックである。
プロテスタントの中の原理主義的傾向を持つ福音派は、LGBTQを排斥し中絶を認めない。ヒトは神が作り給うたものなので、人工的な何か(例えばワクチン接種)を嫌う。科学を信じない、中世の人のようだ。
レーガン時代以前は福音派が政治にタッチすることはなかった。しかし、共和党系シンクタンク<ヘリテージ財団>がレーガンの選挙活動に福音派を利用してから、存在感を増してきた。もともと人口の2%しかいないモルモン教徒、3%しかいないユダヤ教徒は、自己防衛の意味もあってロビー活動をする。福音派はそれをまねて、今や大統領を選べるほどになったわけだ。
クリントン時代の1996年「国際的宗教の自由法」が成立して、米国は国内外に宗教の自由を求めるようになった。例えばコソボで宗教的弾圧があれば、外交はもちろん米軍が介入するのもこの法律が念頭にある。そして共産党体制で宗教の存在を認めない、中国に対しての反感が高まっていく。トランプ時代に米中対立が激しくなったのは、経済的・軍事的脅威もあったが、宗教問題(新疆ウイグル・法輪功等)に由来する動機があったと筆者は言う。
LGBTQの人の結婚式に花束を贈ることを業者が拒否しても、これは差別ではなく宗教の自由(神が認めない人に関わることの禁止を遵守した)なのだそうです。人権と言う言葉の意味が、僕らとは少し違うようですね。