新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

フランスの危機、2015年1月11日

 本書は以前「グローバリズム以後」「ドイツ帝国が世界を破滅させる」などを紹介した、歴史人口学者・家族人類学者エマニュエル・トッド氏が、<シャルリーエブド事件>をきっかけに母国フランスを見つめ直した書。この出版社を襲ったテロ事件は2015年1月7日に起き、11日には「私はシャルリ」というキーワードで全仏で400万人を超える反テロのデモを招いた。

 

 筆者はこのデモが予想外の規模だったことや、各国の首脳が先頭に立って挙行したことを重く受け止め、フランス人がイスラム教徒と激突してしまったことを憂慮している。確かにテロ行為は許すべきではないが、「私はシャルリ」というデモにはイスラム教徒の移民(フランスで生まれた移民の子供たちも含む)へのレイシズム(人種差別)とイスラム恐怖症が隠れているという。

 

 現実にこの年の11月には、130名の犠牲者を出すより大規模なテロが起きた。筆者は本書の結論として、

 

◆未来シナリオ1:対決

 若い世代では人口の1割ほどになるイスラム教徒との対立は、フランスを縮小させ亀裂を生む。100%良くない未来が来る。

 

◇未来シナリオ2:折り合い

 イスラム恐怖症とヨーロッパ主義とは表裏一体。恐怖症を克服して折り合いをつけるには、Frexitして若者たちを失業から救い、経済弱者を助ける必要がある。

 

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 としている。ただ現在の政治は高齢者たちに握られていて、彼らは安定した年金と自由貿易による物価安を望んでいる。それゆえシナリオ2が難しいという。筆者は反グローバリズムの旗手だが、なぜ反グローバルでフランスが救われるかについては、本書を読んでもよく分からなかった。

 

 本書は非常に難解な書で、特に宗教的論説の部分は理解できなかった。ただいくつか興味深い記述があった。

 

・パリ近郊とプロヴァンス地方は、本質的に平等主義(相続は全ての子供に均等)

・その他周辺部は、不平等主義(長子相続)だが、カトリックの助け合い協議で救われていた。

・それが昨今教会の力が弱まり、不平等容認が残って助け合いが失われた(ゾンビ・カトリシズム)

 

 このため若い層に不満が生じて、その矛先が移民(特にイスラム教徒)に向いたという。本筋とは違うが、出生率は向上しているものの5割以上が婚外子だとあった。これは完全な家庭崩壊を意味していて、子供は社会全体で育てるしかないのだと、改めて思いました。フランス病、根が深いですね。