新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

裏面から見た各国の悩み

 2022年発表の本書は、国税調査官出身のフリーライター大村大次郎氏の「世界の歴史・経済論」。もちろん世界を動かしている最大のものは、イデオロギーや宗教、軍事力ではなく「お金」である。その視点から、通常表には出てこない真実がいくつも紹介されている。

 

 面白かったのは、タックスヘイヴン(TH)の黒幕。筆者はこれを英国(勢力)だという。最大の経済大国である米国は、同時にTHの最大の被害者なのだが、英国の老獪な政治力によってTH叩きを果たせずにいる。これはポンドが基軸通貨だった19世紀に英国が作った仕組みで、今でも生き延びている「裏金融社会」なのだ。これを含めて、国内取引中心のウォール街よりも、国際金融の中心は今でもロンドンのシティだとある。

 

        

 

 その米国は(巨大IT以前にも)基軸通貨ドルを使って世界制覇をしたが、金の保有では賄えないくらい世界経済が大きくなってしまう。そのため、金兌換が出来なくなった(*1)。しかし、ドルに代わる基軸通貨は出てこないので、米国は30兆ドルの財政赤字、15兆ドルの対外債務を抱えながらドル札を刷り続けている。

 

 空洞化してしまった米国経済に比べると、筆者は中国経済の方が堅実だ(実質GDPでは勝る)という。WWⅡ後、国民党政権が支配するはずが、蒋介石の国民党の腐敗がひどすぎて共産党政権になってしまった。腐敗叩きを習大人が必死にしているのは、腐敗批判が一番怖い(*2)からだ。その中国の問題は、国土の65%の面積を占める自治区(新疆等)。多くは異教徒で、台湾独立を許せばかの地が蜂起する可能性が高まる。

 

 一番興味を惹いたのは、米国の「ドル刷り、財政赤字」に支えられた世界経済のリスク。誰かが借金しないといけないのが資本主義の原則。今は米国政府が、最大の借り手だ。世界全体の(バブル)経済はその上に成り立っている。例えば中国が米国国債を投げ売って国債市場が暴落すれば、世界経済が破綻しかねない。

 

 これって、誰も責任取れませんよね。どうしましょうか?

 

*1:ニクソンショック、もしくはドルショック

*2:米国があれだけ入れ込んだアフガニスタン政府があっけなく崩れたのも、腐敗が酷かったから。タリバンは(神学生だし)腐敗と上下格差が少ない。