新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

名犬<フレンチ・フライ>

 英国では純文学などで名を挙げた作家が、突然ミステリーを書くという「伝統」がある。A・A・ミルンやイーデン・フィルポッツなどがいい例だ。20世紀後半になってもその流れはあるようで、本書の作者マイケル・ボンドは「くまのパディントン」で知られる児童文学作家である。

 

 作者は1983年の本書に始り、20冊以上のユーモアミステリーを書いた。主人公は元パリ警視庁の刑事で今はグルメガイドブックの覆面調査員パンプルムース氏、フランス語では「グレープフルーツ」を意味する。そしてお供というには存在感のありすぎる名犬ポムフリット。これも「フレンチ・フライ」の意味だ。

 

 ポムフリットも警察犬だったが、予算削減でお払い箱になったところ引退するパンプルムース氏に拾われた。体重50kgにも及ぶブラックハウンドという大型犬で、主人に似てとてもグルメ。警察犬だったから、犯罪者の行動や凶器についても詳しい。<シャム猫ココ>よりは体力があって、主人を助けて大活躍する。

 

        

 

 パンプルムース氏は今年もサン・カスティーユにあるホテルレストラン<ラ・ラングスティーヌ>に滞在して、レストランの料理を評価している。ヒレステーキの焼き方は絶品だが、マディラ酒のソースは塩が多すぎると減点した。ポムフリットもソースをなめさせてもらって、同感だという。いい調子で評価をしていたのだがメインの「鶏の包み茹で」の包みをとると、おもちゃの生首が出てきた。

 

 ホテルのオーナーも、そのちょっと色ぼけの妻も、滞在中の両腕が義手の青年やその妻もびっくりする。その後もパンプルムース氏は、銃撃されたり車に轢かれそうになったりする。加えて現役時代は名うてのプレイボーイだった彼には、オーナーの妻ソフィーが「夜這い」をかけてくる。恐妻家の氏は、身代わりの人形をベッドに置いて難を逃れようとするのだが・・・。

 

 おとな向けということで、かなりきわどいエロチックなユーモアが満載である。トーンとしてはドタバタ劇が続く「ファース調」で、南仏の名物料理の数々がアクセントになってくる。長引く滞在にしびれを切らした氏の凶悪な妻もやってきて、事件は最高潮に。

 

 200ページ余りの中に、英仏文化にうとい日本人でもニヤリをさせられるシーンが一杯。でも、これってミステリーというべきでしょうか?大人の童話のような気がします。