新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

脅威=手段✕機会✕目的✕動機

 2021年発表の本書は、何度かご紹介している元外交官宮家邦彦氏の近著。氏の論説や「朝までナマTV」などでの発言には重みを感じているのだが、本書は飛び切りのインテリジェンス教本である。現在の日本が直面する最大のリスクは、台湾有事と考えてもいいだろう。これに関する書籍はすでに10冊ほど紹介しているが、中国の脅威にどう(作戦・戦術級で)対抗するかというものが多い。筆者もそう感じていて、台湾を巡り米中戦争を起こさないようにするには、どういう(戦略級の)インテリジェンスを働かせるべきかについて、本書で示したかったとある。

 

 「脅威=能力✕意図」というのは良く知られた数式、上記の書籍は能力を軍事力と捉えている例が多いが、さらに分解すれば「能力=手段✕機会」だし「意図=目的✕動機」だとある。

 

        

 

手段:国家戦略を遂行する軍事/非軍事のハードウェアやソフトウェア

機会:敵勢力との距離、国内の結束度合いや指導者の資質

目的:国家戦略やその優先順位、指導者の個人的野心など

動機:外国からの挑発や国内ナショナリズム国民感情

 

 これらについて複数の評価点を置き、それをマトリクス状に並べて各々の象限について分析する。これは筆者が若いころ、某諜報機関から教えられた手法だという。例えば、米中両国の台湾を巡る目的を各4段階とすると、

 

米国:全面的防衛・可能な範囲の防衛・条件付き対中妥協・衝突を回避

中国:全面侵攻占領・金門/馬祖等占領・南シナ海侵攻・軍事的威嚇のみ

 

 のカードをぶつけ合うわけ。もし中国が全面侵攻を目指したのに米国が妥協を選ぶなら、台湾は部分的には占領されてしまう。もし中国の全面侵攻に米国が全面的防衛をすれば、侵攻そのものは失敗するが多数の犠牲が(自衛隊にも)出て、核戦争の危機すら起きる。

 

 こういう分析を4つの要素について、また米中台の各々について行えば、戦争を回避する外交戦略が見えてくるのだ。この手法を用いるには十分な「知的体力」が必要だともあります。及ばずながら参考にさせてもらいますよ。戦争は嫌ですからね。