新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

SFの大家が描くミステリー

 20世紀の日本のSF作家と言えば、小松左京星新一とこの人筒井康隆が挙げられると思う。以前「時をかける少女」を含むSF短篇集を紹介したのだが、作者はミステリーも好きだった。もちろん作者は多芸な人で、小説以外にも戯曲・評論・随筆・童話・絵本・漫画・対談集など幅広い分野で著作を残した。もともと売り出した(お金になった)最初が、TVアニメ「スーパージェッター」のシナリオだったという。

 

 本書は1978年に、作者が発表した歴としたミステリー。表紙にあるように「伝説のミリオンセラー」となりTVアニメ化もされた。ある郊外の街で警察署の刑事課捜査係に勤務する若手刑事神戸大助は、この街の大富豪の息子。父親の喜久右衛門は年老いて車椅子生活だが、若いころはずいぶん悪いこともして巨万の富を築いたらしい。今は息子の大助が、刑事として一人前になってくれることだけが望みだ。

 

 本書には4編の長め(50~80ページ)の短編が収められているが、いずれも趣向の違ったミステリーである。

 

富豪刑事の囮 5億円強奪事件の犯人を4人の容疑者から特定する。

・密室の富豪刑事 エアダクトと鍵穴しかない密室での不可能犯罪を暴く。

富豪刑事のスティング 町工場の社長の息子が誘拐され、子供の救出を図る。

・ホテルの富豪刑事 ホテルでの暴力団の会合の最中に殺された外国人女性の謎。

 

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 という具合で、解説(本格の鬼佐野洋!)によれば「いずれも抑えるところは抑えたミステリー」に仕上がっている。破天荒なのは大助のカネの使い方。5億円事件では4人の容疑者に接近してカネを使いまくって遊び、容疑者が盗んだカネを使いたくなるように仕向ける。暴力団の事件では、300人からの暴力団員をホテル(喜久右衛門がオーナー)に集めるため、他の旅館などを全部借り切る。

 

 1本8,500円のハバナ製葉巻をくゆらし、キャデラックを乗り回すのが日常、自宅のダイニングは30坪もあるという。犯人が要求する子供の身代金が500万円と聞いて、大助は「命が500万円なんて安すぎる」といい、それを工面するのに苦しんでいる親をむっとさせる。

 

 作者は結構破天荒な人で、その感覚を小説の形で書けば非難されないだろうと思っていたフシがある。その形式がSFだろうがミステリーだろうが、どうでも良かったのでしょうね。