新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

市民から離れた政策決定過程

 2021年末発表の本書は、元官僚千正康裕氏の霞ヶ関&永田町改革案。著者は2001年に入省して18年間厚労省に在籍し、現在は独立してコンサル会社を経営する一方、政府機関の有識者会合や民間の政策活動にも貢献している。官僚主導から政治(官邸)主導へと政策決定過程が移る時期に、それを直接経験した筆者の意見は傾聴に値する。ただ出版社が裏表紙に、

 

「アベノマスク等の国民の信頼を損なう政策は、官僚主導から官邸主導への変化に政治の仕組みが追随できないから」

 

 としているのは、本書の本質を十分表してはいない。確かに前半、

 

・根回しなく発表された全校一斉休校

閣議決定をやり直し、なかなか届かない特別定額給付金

・現場の無理を考慮せずに開発を強行して失敗した「COCOA

 

        

 

 などの例を挙げて、特に非常時の迅速性を求められる政策の決定過程に疑問を呈している。しかし、官邸主導そのものが問題なのではなく、霞ヶ関や永田町とそれを取り巻く人たち(象徴的には大手町)も含めた体制的なことに問題の本質があるという。

 

 東大法学部をはじめとして特殊な教育を受けた官僚はもちろん、政治家も経団連に代表される業界団体や企業TOPもメディアも(特に産業)政策に関しては共通の認識を持っている。かつてはそれでコンセンサスが得られていた。しかし、

 

・旧型メディアの衰退と、ネット情報の台頭

・小泉型劇場政治民主党事業仕分け等による、官僚=悪の認識

 

 などがあって、官僚&官邸を問わず政治が直接国民と双方向の意見交換を迫られた。しかし官僚たちは「素人に分かりやすい言葉で説明」する能力も意志もなく、窮地に追い込まれたとある。

 

 筆者の結論は、彼が実践しているように「政治と民衆を近づける草の根活動」にあるといいます。僕はサイバーセキュリティ政策の議論で地方を巡り、全く同じ感想を持ちました。筆者の感覚、決して間違っていないと思いますよ。