新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「官僚支配」にちょっとだけ異論

 本書は以前戦後経済論を紹介した元大蔵官僚高橋洋一教授の2017年の書。「森友学園」「加計学園」問題が盛り上がっていたころで、冒頭元官僚の目から見た両事件の姿が語られる。政治家の関与で不正利得を得た者がいるというメディアの論調をとりあげ、筆者は「メディアが官僚支配を受けた結果」だと断じる。

 

 官僚は意図を政治家とメディアには「レク」と称する説明や文書リークなどで洗脳し、有識者には「審議会」のような場に参加させることで抱き込むという。政治家は膨大な資料を延々説明されてスポイルされるし、メディアは霞ヶ関からの情報をありがたがるように躾けられている。有識者は「審議会」に参加することで権威が増すし、足代(2万円くらい?)も貰えるので「ポチ」に成り下がる。

 

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 一番の問題は、本来は行政官である官僚にしか立法ができないこと。「議員立法」というのもあるが、現実には「基本法」程度しかできず細部の詰めは関連法規を熟知している官僚にしかできない。行政官たる官僚が、自分のやりやすいように「立法」しているのが日本の「三権分立」の実態なのだ。

 

 行政の行動に必要なものは上記のようにして得られた法的根拠と、もうひとつ予算というものがある。これを握っている財務省の権力はどうしても強くなる。6つの局しかない財務省だが、

 

・主計局 予算編成に絶大な権限

・主税局 徴税権でにらみを利かす

・理財局 国有財産を管理する

・国際局 国際経済等を調査する外交部門

・関税局 輸出入の管理、取り締まりもする

・大臣官房 司令塔として人事など行う

 

 の中でも主計局長が事務次官になるケースが多い。安倍内閣では「経産省支配」と言われたこともあるが、実質霞ヶ関財務省支配なのだ。筆者はこれを脱するには、道州制を採用して中央官庁30万人の官僚のうち20万人を道州に移動、予算・権限も委譲すべきという。消費税率なども道州で決めればいいと言っている。

 

 これに異論はないのだが、最大の課題「行政官が立法する」ことは解消されない。道州制に加えて、立法能力のある官僚を立法府に移す必要があると思う。筆者にはそこまで踏み込んでほしかった。あと細かな点だが、審議会全部が「ポチ育成の場」ではないと申しあげたい。デジタル系や国交省のそれのように技術的な要素が強い場では、いくら官僚がこうしたいと思っても物理法則は変えられません。そこだけちょっと異論がありますよ。