新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

やはり要諦は人事

 2020年発表の本書は、ジャーナリスト軽部謙介氏の「アベノミクス」評価。先に「官僚たちのアベノミクス」(2018年)という著書があるようだが、入手できていない。2012年末の総選挙で政権に返り咲いた自民党は、以降10余年にわたって政権を維持しているが、これは市民の「旧民主党の政治はこりごりだ」との記憶に支えられている。

 

 実は政権にあった民主党も白川総裁時代の日銀を批判し、政治とのコミュニケーションがうまくいかなかった日銀は「デフレが続くのは日銀のせい」と言われていた。第二次安倍政権が新総裁に迎えたのが「黒田バズーカ」と評判になった黒田東彦氏。「アベノミクス」の第一の矢である異次元の金融緩和をしてのけた。

 

        

 

 安倍官邸直属のようになった日銀は、やがてマイナス金利まで持ち出して金融緩和を続けるのだが、目標としていたインフレ率2%は全く実現できなかった。2度消費税上げを延期したことで不満を募らせる財務省に対し、安倍政権は内閣人事局で高級官僚の人事を掌握することで、官邸一強を成し遂げて圧力をかけたとある。

 

 官邸は、日銀の独立性を脅かし、財務省・日銀の連携を外し、霞ヶ関人事を抑えて、本書のタイトルにいう「強権の経済政策」を続けることに成功する。まさに「要諦は人事」なのだ。ただ公約でもあった消費税上げは、延期を重ねながらついに8~10%までもっていくことはできた。財務省の顔も立てたという形だ。

 

 筆者は抑えた筆致で、安倍官邸の強権政治の実態を暴いてゆく。特に麻生副総理・財務大臣とは微妙なかんけいを保ちながら、財務官僚を抑え込むプロセスはリアルだ。特に消費税率について、緩和策の一環として法人税下げの議論をするシーンや、軽減税率を導入するくだりは興味深い。

 

 また経団連等に賃上げを要求する「官製春闘」のくだりは、現在の岸田政権とそっくりだ。所詮民間のことに、政治が口を挟むべきではなく、挟んでもうまくいかないことは一度証明されていますよね。