新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

東風41号の機密情報

 2014年発表の本書は、カナダ生まれのジャーナリスト、アダム・ブルックスのデビュー作。東アジアを中心に30ヵ国を巡った人で、本書は北京駐在時の自らの経験から執筆したもの。

 

 大柄で体力も知力もある技術者リー・ファッション(通称ピーナッツ)は、1989年に天安門事件に絡んで逮捕され、20余年を青海省の刑務所で過ごした。政治犯として収監されると刑務所内で「クソ野郎」として過酷な目にあうらしいが、彼の場合はなぜか殺人未遂。従順なふりをして機会を待った彼は、ついに脱獄を果たす。北京の裏町に身を隠した彼は、かつての同僚で今は国策研究所に務めるチンハン博士を脅して極秘情報を手に入れようとする。それは、中国が開発中の超音速弾道弾「東風41号(DF-41)」の情報である。

 

        

 

 DF-41は、米国の切り札空母打撃部隊をも殲滅できる兵器と伝えられる。その情報をピーナッツは一匹狼の英国人ジャーナリスト、マンガンを経由して西側に売ろうとする。彼はマンガンに近づき「ナイトヘロン(ゴイサギ)が狩りを始めた」と謎めいた言葉を伝える。意味を察知した英国情報部(SIS)は、特殊な情報窃取装置を使って研究所から情報を持ち出させ、国外に出そうとする。

 

 この装置を使えば研究所の厳重に管理されたネットワークに侵入し、データをコピーできる。しかし中国の国家安全部も英米の中枢にスパイを放っており、極秘なはずの情報窃取作戦は中国に察知されてしまう。

 

 アマガエルと称するハッカーを、ピーナッツらが使うシーンが興味深い。街角の全てにあるという監視カメラに代表される中国の監視社会と、国家安全部の苛烈な取り締まり、少数民族への弾圧なども非常に生々しい。ピーナッツの回想シーンには、文化大革命時代の紅衛兵の暴挙や、天安門事件のシーンも出てくる。すっかり悪役国家となった中国が、スパイスリラーの主な舞台になりましたね。