本書の発表は1993年、ほぼ30年前の書である。現役外務省官僚(駐ウズベキスタン大使)だった孫崎享氏が、日本外交の過去・現状・課題を述べたもの。ソ連崩壊・冷戦終了で、米国が「敵は日本の経済力」と思っていた時代。日本も先ごろ亡くなった石原慎太郎氏らが「NOと言える日本」を世に問い対決姿勢を示していた。中国は天安門事件などを起こしながら、その巨大さと経済発展が注目され、欧米各国も「近代化すれば民主国家になる」と期待していたころだ。
本書の冒頭から1/3は、日英同盟や日独伊三国同盟などの歴史の話。このあたりは、他の歴史書でも読んだことだが、続く戦後の外交に関しては、
・ずっと対米追従にならざるを得なかった
・特に情報収集、分析能力に関しては非常に弱体だった
と自らも苦しんだ状況を説明している。ハーバード大に留学していた時、CIAのTOP経験者らが講師としてきて、「CIAの仕事のコアは、政策の代案を常に考えること」と教えられたとある。情報収集・分析が弱体な日本の政府組織だが、この本質を理解している官僚も少ないだろうと筆者は言う。
本書には筆者の先輩にあたる外務官僚の経験や知見を紹介した部分が多く、印象深いエピソードが満載である。ただ氏名の次にカッコ書きで「xx年試験、駐xx大使、xx局長など歴任」と注記されているのが、いかにも官僚っぽい。試験とは外交官試験のことで、太平洋戦争前に入省している人の言葉も例に引いてあった。
諸先輩のアドバイスを受けて経験を深めた筆者だが、世界も日本も変わってきたことを感じていた。1993年の時点も国際関係が激動した時期で、外交政策が変わる節目だった。3つ要因があって、
1)日本政府の組織に変化が見られる。旧ソ連支援やPKO協力法などで国際社会貢献が徐々に可能になった。
2)日本の相対的な力の向上。まだ経済中心だが、相手の国との価値観を違いを克服できる素地ができた。
3)日米貿易摩擦のように、国際問題の解決が、より深く内政に関わるようになった。
その後30年、状況はある意味似通っている。集団的自衛権行使が可能となり、今「敵基地攻撃」の議論も出始めた。中国に抜かれたとはいえ日本はGDP3位で、軍事力も5位ほどと見られている。そして内政と外交の境は極め薄くなった。
情報収集・分析から政策の代案策定へ、日本の能力は向上していると期待したいですね。