以前「殺人のすすめ」を紹介したレジナルド・ヒルの「ダルジール&パスコー」ものは、英国では有名なシリーズ。英国の雑誌<ミリオン>が65名の推理作家にアンケートした「有名な探偵は?」の問いで、6位に入っている。7位がエルキュール・ポアロというから立派なものだ。しかしこのシリーズ、日本の読者にはあまり馴染みはない。
それというのもハヤカワミステリが何作か(つまみ食い的に)邦訳を出し、その後ハヤカワ文庫に引き継がれたが、全体の半分も日本版は出版されていない。こういうシリーズものは、ある程度連続して読みレギュラー登場人物の変化や成長を実感できたほうが嬉しい。1973年発表の本書も、前々作「殺人のすすめ」から1作空けて本国で出版されたものだ。
スコットランドヤードのダルジール警視は、連続する空き巣狙いの始末に手を焼いていた。部下のパスコー部長刑事も引きずられ、友人たちとの休暇旅行に遅れてしまった。前々作でよりを戻した学生時代からの恋人エリーを乗せ、パスコーの車が訪問先のオックスフォード州ソーントン・レイシーの街に着いたのは、パーティの翌朝だった。
パスコーとエリー、その街に住むホプキンズ夫妻と2人の男(ゲイのカップル)は、久しぶりに6人で何日かの休暇を一緒しようとしていた。しかしパスコーらが着くと家ではゲイの2人と妻ローズが散弾銃で撃たれて死んでいた。夫のコリンは行方不明。
第一発見者として現地警察への協力を求められたパスコーだが、コリンを有力容疑者と見る現地警察の方針には納得できなかった。しかし初めての田舎町では聞き込みも思うに任せず、ダルジール警視から「早く戻れ」と言われて、ロンドンの空き巣対策に従事することになる。しかし「空き巣」が初めて人を殺したことから、2つの事件が微妙なつながりを見せてくる。
真面目でスマートな青年パスコーに対し、叩き上げの太っちょ警視ダルジールは人品でも劣る。タバコと大食いが止められず、医師からはあと10kg痩せないと重病になるぞと脅されている。普通はパスコーが地道に頑張り、ふんぞりかえっていただけのダルジールが最後に推理の冴えを見せるらしいのだが、本書ではパスコーは「自身の事件」として頑張り抜く。作中でパスコーは警部にも昇進する。面白い作品だと評価するからこそ、順番に訳出してくれたら良かったのにと思いました。