新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

国名シリーズ中の異色作

 1933年発表の本書は、エラリー・クイーンの「国名シリーズ」第七作。パズラー作家としての作者のピークは1932年で、4作品全てが本格ミステリーベスト10の候補に上るほどだ。1933年の4作品(アメリカ銃の謎、本書、Zの悲劇、レーン最後の事件)も、いずれ劣らぬ高品質のパズラーだ。

 

 本書のテーマは2つ、題名にもなった結合された状態で産まれた<シャム双子>と、官憲が関与できない孤立したエリアでの殺人事件である。クイーン警視とエラリーはカナダでの休暇を過ごした帰り道、アローマウンテンというエリアで山火事に遭遇する。エラリーの愛車デューセンバーグは、2人を乗せて危機を突破し、山の頂上にあるゼーヴィア博士の屋敷にたどり着く。

 

        

 

 冒頭のスリリングなシーンから一転して、博士の屋敷は怪奇な雰囲気。<骸骨>と呼ばれその通りの風貌を持った執事や、ヒキガエルに似た謎の男が登場、さらに警視は「巨大な蟹のような人影を見た」とエラリーに言う。

 

 投宿した翌朝、ゼーヴィア博士が射殺体で見つかるが、山火事は麓を覆い尽くしていていて、現地の保安官も来ることができない。臨時に捜査を委嘱されたクイーン父子は、遺体が手に持っている半分に引き裂かれた<スペードの6>のカードを発見する。いわゆるダイイングメッセージなのだが、もう1枚<ダイヤのJ>の登場で2人は困った立場に置かれる。

 

 ゼーヴィア博士は<シャム双子>の分離手術を研究していて、高貴な夫人が2人の16歳になる息子を連れて屋敷に匿われていたのだ。頂上に向けて炎は迫りくる中で、科学捜査のできないままクイーン父子は殺人犯を追う。

 

 怪奇な雰囲気で始まり、中盤のサスペンスは山火事に拠るところが大きいものの、解決の鮮やかさはさすがでした。国名シリーズではエラリーが間違ったものも含めていくつかの推理・解決をして見せる傾向がありますが、その意味で4回の解決を楽しめましたよ。