新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

懐かしや、特捜部会田刑事

 TV朝日系で1973年から1980年まで放映された刑事ドラマ「非情のライセンス」。刑事ものを各局が競っていたころのシリーズで、それらの中では最もハードボイルド色が強かった印象がある。そのシリーズの原作となったのが、生島治郎作の本書である。主人公の会田刑事は、ちょい悪オヤジの二枚目天知茂のはまり役だった。

 

 TVシリーズでは40歳代と思われる落ち着いた雰囲気の警部補が会田刑事なのだが、原作では30歳そこそこ、長髪でマニキュアまでする「ヒッピー刑事」である。TV局はなんらかの都合(例:太陽にほえろのマカロニ刑事との差別化)で、キャラクターを変えてしまったのだろう。

 

 それはともかく、本書には30~60ページほどの短編5編が収められている。警視庁特捜部は、他部署からのはみだしものを一本釣りしてあつめた「ふきだまり」。部長の矢部警視(ドラマでは山村聰が演じた)以外は、出世をあきらめた平刑事ばかりのフラットな組織だ。会田も捜査4課(マル暴担当)時代は有能な刑事だったが、怒りに任せて暴力団幹部を撃ってしまいはみ出し者になってしまった。

 

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 さっそうと事件を解決する・・・というよりは矢部警視の手管に乗って、ショカツなどが手を引いた事件や非公式の要人護衛などのミッションを掴まされる「イヤイヤ刑事」である。同じように大手新聞社ではみだしてしまった元敏腕記者と夜通し呑んで、這うように出勤して、そのままソファで寝てしまう自堕落さだ。

 

 その記者が、酔っぱらって社会を批判する言葉が面白い。「政治家はもとより大企業も銀行もあくどいことをやっている。それに対して庶民は全く無防備だ」・・と訴え、血税が無為なことに使われる一方、インフレで庶民が苦しくなる分私腹を肥やしている富裕層がいるという。それらを暴く記事を書こうとすると、デスクから「お前の記事は偏見に満ちている」とボツにされてしまうのだ。

 

 本書は1960年代の作品だが、「社会派ミステリー」として見た場合の主張は、現在の「れいわ新選組」らのものと変わらない。作者は日本版「EQMM」の編集に携わったのち作家デビューをし、日本推理作家協会の理事長も務めた。乱歩賞の選考などしていた時は、「自分の書きたいことをミステリーの形にまとめればいい」として、古めかしい本格ミステリーには辛口だったという。ハードボイルド&社会派ミステリーが好きだったのでしょうね。