新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

13区のボロ館に棲む失業学者たち

 本書は以前「青いチョークの男」を紹介した、フランスのミステリー作家フレッド・バルガスの四作目。「青い・・・」の主人公はパリ5区の警察署長だったが、本書(1995年発表)に始まるシリーズでは3人+αのチームが探偵役を務める。その3人とは、

 

・中世が専門の歴史学者マルク、通称聖マルコ

・先史時代が専門の歴史学者マティアス、通称聖マタイ

第一次大戦が専門の歴史学者リュシアン、通称聖ルカ

 

 で、いずれも35歳。本来優秀なはずの彼らだが、風変わりな性格が災いして揃って大学を放逐され、今は失業保険やアルバイトで細々暮らしている。築何年かもわからないボロ館に棲み、貧しいながらもノー天気に暮らしている。そこに転がり込んできたのがαであるマルコの伯父アルマン。元刑事で警視にまで昇進したがある事件で容疑者を見逃してやって、警察から放り出された。こちらもカネには縁がない。

 

 ボロ館の隣は立派な屋敷、引退した美しいオペラ歌手ソフィアとその夫が住んでいる。ソフィアから見ると、知的だが風変わりな男(マルコ)、冬でも裸で走り回る男(マタイ)、戦争だ!突撃だ!と叫ぶ男(ルカ)のすべては異様である。

 

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 しかしある日ソフィアは、屋敷の庭にブナの若木が植えられているのを見つける。夫も含め全く心当たりがなく、不安に思った彼女はボロ館の3人にブナの根本を掘り返すように依頼する。カネにつられて労働をした3人だが、木の下には何もなかった。拍子抜けだったのだが、その直後ソフィアが失踪してしまう。

 

 夫は「いつもの気まぐれ、直に戻ってくる」というのだが、夫には愛人もいるし、現役時代からの熱狂的なファンも少なくない。かつて楽屋で何者かに襲われた過去も、彼女にはある。失踪?誘拐?それとも殺人?との疑惑を持った4人は、13区警察のルゲネック警部と共に彼女を探し始める。

 

 風変わりな登場人物のからみで、全編にユーモア感はあふれている。ただそれが日本人好みかどうかは、意見が分かれよう。フランス流のエスプリというものかもしれない。ミステリーとしての根幹がしっかりしているのは「青い・・・」と同様だが、歴史学者3名の個性が、捜査に役に立っているようには見えないのが難点。最後のダイイングメッセージも、フランス語が分からないと解けないなぞだった。

 

 フランスの本格ミステリーが少ない中で健闘する作者ですが、ごめんなさい。評価は「もう一歩」ですね。