新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

兵士の顔が写っている!

 ロバート・キャパは、ハンガリー生まれのユダヤ人。本名をアンドレフリードマンという。20歳前に生まれ故郷のブダペストを脱出、ベルリンからパリへ渡り写真家を目指した。彼はスペイン内戦で取材をし、兵士が銃弾に斃れる瞬間を切り取った写真が<ライフ誌>に載って名を挙げた。

 

 本書は、キャパの第二次世界大戦での活動を綴った自伝。1942年のニューヨークに始り、英本土での航空戦、アルジェリアの戦い、シチリアアンツィオと転戦したイタリア戦線、ノルマンディ上陸作戦からバルジ大作戦終戦までが記録されている。全編を通じて、兵士や地元の人達とバクチをし、酒を呑むシーンが多い。彼らと打ち解ける以上に、そのこと自体が好きだったようだ。

 

 スペインや中国(日中戦争)まで取材して歩いたキャパだが、ニューヨークでは食い詰めていた。敵性国家ハンガリー出身ということで、信用も得られない。しかし<コリアーズ誌>の依頼で、従軍カメラマンとして英国から大陸への反攻に参加することになる。

 

        

 

 ドイツ語、フランス語、スペイン語が話せる彼を、連合軍は時に通訳として重宝した。シチリアでは空挺隊員と共にパラシュートで前線に降下、アンツィオでは上陸作戦にも参加した。とはいえ順風満帆だったわけではなく、空軍の秘密兵器を写真に撮ってしまって逮捕されたり、<コリアーズ誌>からクビになってもいる。幸い<ライフ誌>が契約してくれて従軍を続けることができ、ついに「D-Day:ノルマンディ上陸作戦」に臨むことになる。

 

 表紙の写真は上陸時の作品。題名にいうピンボケではなく、手ブレだと思う。愛機コンタックスを持つ手がこのときばかりは震え、フィルムの装填が上手くいかなかったり、撮影済みフィルムを落としてしまったとある。結局このビーチでの成果は、8枚に留まった。

 

 第二次世界大戦後もイスラエル独立戦争などでキャパは戦場を撮り続け、戦場の悲惨さや民間人の苦悩を公表した。そして1954年、ハノイ南方でベトコンと戦うフランス軍随行していて、地雷で命を失った。学生時代写真部員だった僕は、名古屋に来た「キャパ展」を見に行ったことがある。驚いたのは「兵士の顔が写っている」こと。このカメラマンは、兵士より前に出て撮影していたのだ。

 

 「これぞプロ!」と思ったのですが、そんな彼の手も震えていたことを本書で知りました。