2020年発表の本書は、日経紙でモスクワ特派員などを経験した古川英治氏のロシア謀略レポート。かつての超大国ソ連は解体され、ロシアが世界有数と思えるものは核戦力くらいしか無くなってしまった。ハードパワーもソフトパワーも、世界10位に入るのは難しいだろう。しかし、サイバー空間を含めた謀略・工作の<ダークパワー>なら「大国」の地位を掴めると彼らは考えている。ここには法も秩序もなく(市民やメディアの監視がないので)取り得る選択肢が無制限にあるロシアは優位に立てる。
筆者は特派員としての立場や人脈を活かして、欧州中心にロシアの近年の<ダークパワー>を取材している。例えば、
・放射性の毒薬などを使った暗殺
・謎の美女を通しての買収
・ロンドン中心街を買い占めるオリガルヒマネー
・工場で生産される偽情報、ネット工作、プロパガンダ
という次第。トランプ大統領を産んだかもしれない工作の拠点は、北マケドニアにあったとある。まあ、ボスニア紛争の(偽)映像は、ロサンゼルスのスタジオで撮影されたとの説もあるから、お互い様ではある。
サイバー空間での工作にも1章を割いてて、2007年のエストニア攻撃以降の主な事件を列挙している。特に2017年の「NetPetya」の大流行は、ウクライナを狙ったものが政界65ヵ国に拡散してしまったとある。筆者が取材した元KGBやハッカーによると、
・NATOが2016年に(ロシアより先に)サイバー空間を作戦領域とした
・さらに前に、イランの原子力施設を米国がサイバー攻撃している
に危機感をもってロシアはサイバー攻撃力を磨いたという。
・GRUとFSBが個別にハッカー組織を持っていて、競い合い時には妨害し合う
・犯罪者でもかまわずリクルートして、組織強化に努めている
2022年のウクライナ侵攻前でも、ロシアの主目的はNATO東方拡大阻止とウクライナ併合だったのが良く分かります。多くの工作は、その2つとロシア国内の治安維持の3点に絞られていますから。