新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

最強のモラルパワー大国

 米中対立に加え、ロシアのウクライナ侵攻によって、国際的緊張は一気に高まった。ロシアを非難する国は多いが、非難決議にあからさまに反対しないまでも棄権し沈黙(暗黙?)する国も少なくない。中国・インドの両大国もそうだし、欧米流の「正義」に眉をひそめている人たちも無視できないくらいいるわけだ。

 

 このまま(専制国家と自由主義国家の)新冷戦に突入するかもしれないし、最悪第三次世界大戦に繋がるかもしれない。有力な軍事・政治・経済力を持った国のスタンスは見えてきたのだが、ここに極小でありながら強力なパワーを持った国があって、その動向が注目されている。それは「バチカン市国」。面積44ha、人口は800人ほどだが、カトリックの総本山として、揺るがぬモラルパワーを持っている。2017年発表の本書は、2年間在バチカン日本大使館公使を務めた徳安茂氏が、フランシスコ法王と同国のパワーについて紹介した書。

 

 冒頭、シリア紛争やロシアのクリミア併合にあたり、法王とその側近がどのようなことをしたかが綴られている。

 

    

 

・シリアのアサド政権が化学兵器を使った時、米仏の空爆介入に反対した。

・同じくISが台頭した時、米軍のISへの空爆は容認した。

・クリミア併合後法王はプーチン大統領を呼び、何かを諭した。

 

 バチカンの目標は、キリスト教の理想を実現し人類全体に福音をもたらすこと。アサド政権への攻撃は紛争を大きくするから福音から遠ざかるとして反対、しかしISはキリスト教徒への深刻な脅威となっていたので攻撃に賛成したということ。クリミア併合は「良くない」のだが、人権侵害は程度の差こそあれウクライナもしているので、直接は叱らない。しかしこれ以上拡大するなよと、クギを刺したものらしい。

 

 宗教を禁じている共産党政権とは国交がなく、中華人民共和国の旗の代わりに中華民国の旗がバチカンには立っている。しかし2000年かけて世界中に張り巡らされたカトリックの情報網は強力で、2,000万人以上のカトリック教徒がいる中国とも対話の窓は閉ざしていない。そのインテリジェンス能力とモラルパワーは世界に類を見ないとある。

 

 米中対立、ウクライナ紛争を少しでも早く収める(Settle)ために、この国とフランシスコ法王の力は必要だと感じました。それが今、どれほど動いていてくれるかは不透明ですが。