2022年発表の本書は、ジャーナリスト布施祐仁氏の日本PKO録。闘わなくてもいい軍隊としての自衛隊の実態や課題を多くの書で見てきたが、自衛隊員が本当に撃ち合いになるかもしれないと感じたケースのほとんどは海外派遣(PKO)だった。
筆者はイラク派遣の実態を知るべく情報公開請求をしたところ、黒塗りばかりの資料が送られてきたという。それ以降多くのPKOの実情を調査し、本書にまとめている。筆者の結論は、憲法9条下でのPKO派遣は困難なので、
・現地での(復興)人材育成
・停戦に関する軍事監視
のような戦闘に巻き込まれにくいことに限定すべきだとある。確かに日本政府が定めたPKO5原則(*1)は、現地の実態とはかけ離れている。日本だけでなく、国連PKO全体が中立の原則を守れなくなったのは、ルワンダで目の前で虐殺が起きてもオランダPKO部隊がそれを止められなかったなどの反省があったからだ。
それなのに現地で5原則が守られていてPKO継続可能と見せるために、
・日報などの情報はあるが、開示するのは黒塗り資料
・政府答弁も奇妙なものになる
宮沢総理:発砲するようではPKOは失敗
中谷防衛大臣:(ジュバ・クライシスについて)散発的な発砲
などと強弁することになる。政府や大臣にとっては、実態を知られるのは大きな政治的リスクだったのだ。もうひとつ大きなリスクがある。それは派遣される自衛隊員について。武器使用の制限が厳しいため、紛争地では命の危険が他国のPKO部隊より大きい。さらに国際人道法の対象に自衛隊員がなっていないため、
「自衛隊員はジュネーブ条約にいう捕虜にはならない」岸田外相(2015年)
捕えられれば、虐殺される公算が高いのだ。
送り出す政治家もリスク、送り出される隊員にもリスク。ゆえに筆者は上記のように「闘わない任務」に限定せよと提案する。しかしようやく防衛3文書の改訂も成り、自衛隊が闘える軍隊になる道が開けました。この2つのリスクを排して、他の主要国並みのPKOが派遣できるようになる日はいつになるのでしょうか。
*1:①停戦合意、②日本の参加についての同意、③中立的立場、④撤収可能、⑤必要最小限の武器使用