1914年の今日(6/28)、サラエボでオーストリア=ハンガリー帝国の皇太子夫妻が暗殺されたことで、欧州における100年の平和は破られた。あしかけ5年にわたる第一次世界大戦の始まりである。欧州では「大戦」といえば第一次を指すことが多い。第二次は第一次の戦後処理がまずかったことによる「余震」のようなものと捉えられていると本書(1999年発表)にある。著者の桜井哲夫氏は、近・現代社会史を専門とする東京経済大学教授。本書でフランスを中心とする欧州各国の精神構造が壊れたと主張する。
機関銃・毒ガス・戦車・航空機などの新兵器が続々登場、生身の兵士は塹壕に籠って震えるしかなかった。銃後でも労働力不足による外国人や女性が生産活動に投入され、物資の不足と物価の高騰、若者は戦地に送られて死亡通知が届く社会状態が、多くの人の精神を傷つけることになる。
筆者は多くの文献から、当時の知識人や有名人の思想や行動、世代間の考え方のギャップなどを明らかにしている。兵士は塹壕の中の戦友だけが「仲間」と考え、それ以外は敵も味方も民間人も含めて「人」と考えなくなった。これは21世紀のウクライナでも起きている、多様な戦争犯罪の原因である。
例えばムッソリーニは、塹壕仲間との紐帯によって後のファシズムを産み出した。ヒトラーも復員後、古い秩序になじめず政治家を志した。多くの知識人が戦場で、また銃後で社会の変化を感じ、これまでの経験が無になったゆえの行動に出る。戦後の混乱期の貧困も相まって、欧州は自信を無くしてしまった。
世代間の分断も生じた。出征した世代の多くが帰らなかったことで、口伝により受け継がれるはずの種々のものが銃後に残った子供たち世代に受け継がれなかった。植民地の識者たちも、秩序を失くした欧州はら離れる機会を得たことになる。
考えればこのころから欧州支配が終わり、現在のグローバルサウスの台頭につながってきたのでしょう。ある意味興味深い100年史でした。