新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「全米400名の吸血鬼」のひとり

 シカゴ育ちのロバート・ウォーカーという作家は、1989年の「デコイ」という作品でデビューし、30作ほどの長編ミステリーを発表している。その中で半分近くを占めるのが、FBIの検死官ジェシカ・コランを主人公としたシリーズ。邦訳されたものの大半も、このシリーズである。1992年発表の本書は、その第一作。

 

 ジェシカは金褐色の髪をした長身の美女、年齢は分からないがFBIの検死官チームのリーダーだから20歳代ということはないだろう。やはり検死官だった父も母親も亡くし、独身で子供もいない。検死官としての能力はFBIの外にも伝わるほどだが、陰惨な死体や現場を見ても冷静という「冷たい女」ではない。

 

 事件は、ウィスコンシンの田舎町で売春の前科のある娘が惨殺されたところから始まる。逆さ吊りにされ、全身を滅多斬りにされている。片腕は切り落とされ、首もほとんど切り離されていて、片方の乳房がない。両方のアキレス腱が斬られていて、逃げられなくなったところで逆さ吊りにされて切り刻まれたらしい。死体には血液は残っていない。

 

        

 

 現場の速報を受けたFBIのベテラン心理分析官ブティーン警視は、シカゴ周辺で起きている連続殺人の一環ではないかと考え、ジェシカに協力を求める。ジェシカは一瞬立ちすくんだものの現場を精緻に調べ、死体の頸動脈に奇妙な傷を見つける。犯人は、特殊な医療器具で血をゆっくり吸い出したようだ。

 

 あらためて以前の犠牲者の検視をやり直すと、やはり似た傷が見つかった。ブティーンは「全米には血液を欲しがる吸血鬼のようなものが、400人ほどいる」と言い、そのうちの一人が本当に血を飲み、血の風呂に浸かって暮らしているのだと分析する。警視らのチームは犯人像を、

 

・シカゴに在住

・30歳代までの白人男性

ウィスコンシンなどを巡回する仕事をしている

 

 とし、ジェシカは「血液を飲むことを必要とする、ホルモン異常があるのでは」と付け加える。捜査は進むのだが、犯人側もジェシカに目を付け「お前の血を飲みたい」と挑戦してくる。

 

 作者は影響を受けた作家として、ロバート・ブロック、リチャード・マシスンに加えパトリシア・コーンウェルを挙げている。確かに「検死官」に始まるコーンウェルのスカーペッタものに似たテイストだが、それよりずっとリアルで恐ろしい。10冊ほど邦訳されているようですから、続編を探すことにします。