2020年発表の本書は、財政学・環境経済学が専門の京都大学諸富徹教授の税制論。僕たちがGlobal & Digital化は当然と思っているのに、多くの知の巨人が「それによって格差が拡大したし、容認している各国政府はけしからん」と非難している書を一杯読んだ。国内の政策論でも「この30年、法人税を下げ、所得税を下げ、消費税を導入したから格差が開いた」と指摘する党がいくつかある。この税制を、新自由主義によるものと糾弾する人たちもいる。
しかしいずれも、国内の議論に終始していて、世界全体の税制の議論に届かないなとぼんやり思っていた。そこに、ずばり切り込んでくれたのが本書である。筆者は、政府が金持ちや儲かっている企業の課税強化をできない理由について、
・税負担はできるところに担ってもらうのが原則
・金持ちや儲かっている企業への増税はあるべき施策だが
・彼らに海外逃避されるという大きな副作用を招く
からだと説明する。課税権は国家に与えられる権利だが、一般に国内にしか適用できない。国際的なビジネスが割合少なかった、第一次世界大戦後に作られた国際課税スキームが今でも原則として存在している。しかし100年経って、このスキームは事実上破綻している。
20世紀終盤から、各国は自国にビジネスを誘致するために法人税を下げる競争をした。富裕層を招くために所得税も抑えた。さらには国際的に課税逃れが可能な国や地域(タックスヘヴン)も現れた。それをサポートするのが、金融業務の一つの柱となった。どのくらい、国としてあるべき租税を奪われているかという調査結果(2015年)が面白い。
シンガポール 41%
香港 33%
ドイツ 28%
アイスランド 22%
フランス 21%
ハンガリー 21%
スイス 20%
イタリア 19%
英国 18%
米国 14%
カナダ 9%
日本 6%
中国 3%
上位2国は中国の影響だろうか、EU内の国もかなり上位にある。OECDなどでの課税権の見直し議論も紹介されているが、見通しは明るくない。新自由主義が良くないと仰るなら、国際課税権の話を議論して、一般視聴者にも伝えていただく方がいいと思います。