本書は今月(2023/1)発売されたばかり。先に「ガバメントアクセスと通商ルール」を紹介したCFIEC編の国際情勢論である。この団体とは、国境のないサイバー空間での議論をさせてもらっている関係で、このような書籍を送ってもらえている。本書のテーマは、ウクライナ紛争や米中対立を例としたES時代への展望。
種々の分野の国際政治や軍事の専門家が、17論文を寄稿し、最後に「ウクライナ危機後の米中関係」というパネルディスカッションが誌上収録されている。全ての論者に共通する意見は、
・グローバル化は一旦停止、各国ESを意識したブロック化を目指す
・欧米対中露という単純な2者対立ではなく、容易に決着しない
・日本は真の国益を熟慮して、ロシア・中国・米国らとの関係を構築すべき
というもの。米国主導の国際秩序が崩れ、時代は「Gゼロ」。対ロシア制裁もロシア市民が耐乏しているうちは、決定的な効果を産まない。
中国も決してロシアの行動には納得しておらず、心中するつもりはない。西側と見られるイスラエルも、ロシア国内の多数のユダヤ人のことを憂慮してロシアを正面から批判はしない。大陸国家としてのインドも、ロシア製兵器が多いと言うだけではなくユーラシア大陸に強敵を作りたくないので旗色は鮮明にしない。
ウクライナ紛争より大きな問題が米中対立、過去の冷戦と異なり「脅威国との密接な経済交流:Close Economic Exchange with a Threatening State(CEETS)」を米中が結んでいることが問題を複雑にしている。米国は、QUAD・IPEF・AUKUSなどの国際的枠組みを作って中国封じ込めを図るが容易ではない。例えば海洋国家インドは乗ったとしても、大陸国家インドはユーラシア大陸の地政学上参加できないこともある。
ただロシアの国際的影響力低下は間違いなく、中国も直ぐに世界覇権を狙えるわけではない。日本は朝鮮半島や台湾海峡の危機にどう対処するか、ESの観点で熟議が必要ということらしい。最後に、元海上自衛隊司令長官香田提督が示す台湾有事の条件。
1)台湾国内が混乱するか、独立へと走る
2)台湾に関する米国国内世論が分裂する
3)米国に大規模パンデミックや大災害が起きる
4)米軍が日本まで来られなくなり撤退する
5)日本の米軍受け入れ条件に変化が起きる
6)中東その他でウクライナ以外の第二戦線が発生する
そんなことが起きないことを祈りますが、米軍基地撤去を求める某政党、某新聞、某県知事の動きなどは5)を狙ってのものかもしれません。