本書は、以前「アイ・アム・レジェンド」を紹介したリチャード・マシスンの短編集。作者は、ロアルド・ダールともフィリップ・K・ディックとも違う、一癖ある奇妙な味のストーリーテラーだ。1950年代からおよそ半世紀にわたって、小説や脚本を書き続けた。「アイ・アム・・・」以外にも、多くの小説が映画化されている。本書の表題作「運命のボタン」はわずか20ページの短編だが、帯にあるようにキャメロン・ディアス主演で映画化されたらしい。
本書には、ショートショートから長めの短編13作品が収められている。一つとして同じパターンはなく、何らかの超常現象が登場する。しかし超常現象は背景であって、それに翻弄される普通の人間の行動がテーマだ。
表題作は「ボタンを押せば5万ドルが手に入るが、見知らぬ誰かが死ぬ」と言われた主婦の葛藤。夫と、
・人殺しはできない
・でも死ぬのは地球の裏側の人かも
・5万ドルあれば、海外旅行に行って・・・
などと話し合うのだが、カネ欲しさにボタンを押したところ・・・。
「魔女戦線」は、超能力をもった少女たちを使う軍隊の話。敵軍が迫るのだが、彼女たちがケラケラと笑いながら超能力を発揮すると、歩兵も戦車も片端から炎上してしまう。「戸口に立つ少女」は、息子を同年代の少女が訪ねて来てから、その家で起きる数々の怪奇現象。母親は少女を遠ざけようとするのだが・・・。「死の部屋の中で」は、映画「激突」にも一部シーンを流用された田舎町のカフェレストランで起きる事件。これだけは純粋なミステリーだ。
特に面白かったのは「四角い墓場」。アンドロイドが普通になった社会で、アンドロイド同士の賭けボクシング試合が行われる。自分のチームのおんぼろアンドロイドが故障したので、代わって人間がリングに上がる。人間とアンドロイドの殴り合いは「ターミネーター」のそれに繋がっているように思う。
いや、本当に不思議な話の連続です。読み過ぎにご注意!