新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

過疎「地域」対策の本質論

 2022年発表の本書は、地方政策に悩んできた僕に、問題の本質を明らかにしてくれたもの。著者の花房尚作氏は、鹿児島育ちで世界を見たマルチタレント。政府には過疎対策はあっても、過疎地域対策がないと喝破する。その結果「人口が減る」という現象に対応するだけで、地域に根差した問題には届かない。多くの調査も中央(霞ヶ関や大手町)の視点からのもので、地方の実態や暗部を捉え切れていない。

 

 地域は閉鎖的なコミュニテイで成り立っていて、内部の経験や感情で動く。外部からの人や意見はいれず、内部でも異分子は排除する。他との交流が少ないため競争原理が働かず、自由主義でも資本主義でもない社会になっている。

 

 通常なら企業も個人も、主体性を持って、戦略的思考に基づき、合理的な判断をする。筆者はこれを「組織システム」と呼ぶ。しかし地域コミュニテイでは、内部の空気に支配され、戦術(場当たり)的な対応をし、合理性には欠ける行動をとる。これは「相互行為システム」である。

 

        

 

 帯にあるように、稚拙・窮屈・不自由・偏狭な社会なのだが、それが当然と思う人ばかりで構成されているので、日常の問題はない。しかしそれを外部から見ると、

 

・全部ブラック企業、職場ではないか

・なぜ問題だと声を挙げないのか

・生活レベルが低く、困窮している

 

 となる。地域活性化の掛け声で多くの府省が予算を付けるのだが、結局は観光施設などのハコモノに終始する。一時的な需要にはなるのだが、その後は施設利用の誘致合戦になり効果を産まない。筆者は地域の「いやらしさ」を次のように総括する。

 

・人は他者に依存し、同時に干渉する

・社会は経験を重視し、戦術的な動きをする

・文化に主体性はなく、独自の規律を優先する

 

 鹿児島県のA市の改革例が面白かった。市民の平均年収は200万円ほどだが、都会と同程度である公務員の600万円が入っているので、一般市民は100万円台。生活保護世帯も15%近い。この格差を是正しようとした市長が、公務員のボーナスを半減、議会議員も半減しようとして既得権益集団の抵抗に逢う。

 

 結局市長の改革は頓挫しましたが、このような改革は必要でしょう。それを大規模にやっているのが、大阪維新の会のように見えますね。