2022年発表の本書は、米軍撤退後のアフガニスタンにおけるタリバン政権の状況と未来を考察したもの。同志社大学内藤正典教授(国際関係学)が、国連事務総長特別代行としてアフガニスタン支援ミッションを指揮してきた山本忠通氏にインタビューしてまとめている。
19世紀には英国を苦しめ、20世紀になってソ連を崩壊に導き、21世紀には(考えようによっては)米国のG1時代を終わらせたのがアフガニスタン。一度米軍・NATO軍に追われながら、2021年にタリバン政権が戻ってきた。ただ、西側支配の20余年間に、
・就学児童が9倍になった。そのうち4割は女子児童
・人口がほぼ2倍(2,100万人⇒3,900万人)
になっている。女性の社会進出も進んでいたのだが、神学校生を意味するタリバンは、イスラム法原理主義者でありシャリーア以外の思想は認めない。
教育環境が激変するし、貧困がはびこり全国民の2/3に生活支援が必要な状況なのに有効な手段がない。直接的な原因は経済制裁だが、いまだにタリバン政権を承認した国がないのだから、国際社会としてはこれを解除できない。また20余年前の支配時代に戻してしまったのだから、本来半分の人口を食べさせるのが精一杯なのだ。
イスラムの教えは技術の発展は認めるが、社会の発展は認めない。つまり構造改革による経済発展はあり得ないのだ。これでは、国全体が貧困から抜け出せないのも無理はない。イスラム教は「商人の掟」だとある。誠実な商売を続けるためのもので、嘘はNG、盗みはもっとNG(だから手首を切り落とす)。一般に金利はNGだが、投資側が一緒に得もし損もしようというならOK。
ただ女性の権利については、イスラム教というよりかの地域の過剰な家父長制度が問題だとある。確かにサダム・フセインのイラクでは女性兵士もいた。アフガニスタンは家父長制が強いということ。
本書には「歴史上イスラム法の論理(シャリーア)だけで統治できた国はない」とあります。タリバンの目指すのはその「世界初」なのでしょうが・・・。