新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

日本に必要なのは理系経営者

 本書は、菅内閣で政府の成長戦略会議委員を務め、

 

・中小企業は小さいがゆえに問題を引き起こし、低生産性を招いている。

・合併などで大きくなれない企業は、消えてもらうしかない。

・特に実質税率ゼロの小規模事業者は、減らすべし。

 

 と発言して物議を醸したデービッド・アトキンソン氏の日本産業論(2015年発表)。筆者は英国人だが、オックスフォードで日本学を学んだ日本通。ゴールドマン・サックス時代に日本の不良債権を指摘して有名になった。金融業引退後、小西美術工藝社の社長を引き受け、茶の湯など楽しみながら京都に住んでいる。

 

 日本の良いところは充分承知しながら、日本人や日本企業(含む霞ヶ関)の改善すべきところを「歯に衣着せず」直言した書である。第二次世界大戦前から、日本の経済基盤は整っていた。戦後復興で奇跡の復活を遂げたと言われるが、奇跡でもなんでもなく必然。V字回復が鮮やかだったから、本来直すべきことを「面倒くさい」と先送りして失われた20~30年を迎えたというのが主旨。

 

        

 

 経営者としての彼は、ある程度の年齢で職人たちの昇給を止め、浮いた人件費で若い人を全て正社員として厚遇する改革を行った。これは、伝統工芸を担う人の後継者を守るための改革で、同社は復活したとある。政府の「若肉老食」施策に異議を唱える、実績ある改革だ。観光産業への提言として、日本は観光客数増だけを求めるが、近年観光客の消費単価が頭打ちなのが問題と指摘。もっと富裕層を呼ぶ工夫をしてお金を落としてもらうべしと「経営視点」のアドバイスだった。

 

 日本企業最大の問題点は、経営者の資質。米国のように平社員はどうしようもないが、経営者がちゃんと数字を見て株価を上げているのに比べ、日本の平社員は優秀なのに職位が上がるほど働かないし、無能に見えるという。無駄な会議、挨拶回りという外出、さらに夜の接待・・・精神論ばかり説き、数字を見ない経営者ばかり。

 

 その原因は、日本人の思考に「Woolly Thinking:ぼんやりした考え」の傾向が強いからだと筆者は言う。しかし時々そうではない本物の経営者にも会うが、例外なくエンジニアリングか理系の出身者である。中小企業の規模拡大というのも、そのような経営者が日本には少ないので、少ない経営者を活かすためのことらしい。

 

 正直、全く同感です。日本に必要なのは、理系の経営者による産業構造改革ですよね。