新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

テロリストを狙う10人の精鋭たち

 2014年発表の本書は、ベテランミステリー作家ドン・ウィンズロウが本格的な軍事スリラーに挑戦した作品。作者は入院中に構想して産み出した探偵ニール・ケアリーものでデビューし、注目を集めた。多くの作品が邦訳されているのだが、実は呼んだのは初めて。37歳の作家デビューまでに多くの職業に就いたとあるが、アフリカ史学士と軍事史修士を持つインテリである。

 

 その軍事史の知識を、いかんなく発揮したのが本書といえよう。主人公のディヴ・コリンズ退役少佐は元デルタフォース隊員、イラクやアフガンでの厳しい戦闘にも生き残りJFK空港の警備の職に就いている。妻子がJFKからの国内線211便に乗った日、イスラム教徒の自爆テロを寸前で防いだ。しかしJFKへの攻撃はこれ一つではなく、あろうことか211便が地対空ミサイルで撃墜されてしまう。乗客・乗員170名ほどは一人も助からなかった。

 

 このテロは欧州に拠点を持つアジーズというテロリストが仕組んだもの、ビン=ラーディン殺害の報復である。対テロ戦争で抜き差しならなくなっていた米国政府は、犯行声明がないのをいいことに、本件を事故として片付けようとした。

 

        

 

 妻子を亡くしたコリンズの元にも400万ドル以上の賠償金が来たのだが、ミサイルの航跡を見たとの証言を得たコリンズは賠償金で傭兵を雇い報復することを考える。同調する犠牲者家族もあって、2億ドルほどの資金が集まった。

 

 かつての上司ドノヴァン隊長が持つ傭兵部隊は、各国の特殊部隊OBを揃えた強力なもの。爆破や狙撃、医療など各人が複数の特技を持っている。そこにコリンズも加わろうとするのだが、引退して時間が経った彼にメンバーの視線は厳しい。中盤はその厳しい訓練にコリンズがどう耐えるかが描かれる。

 

 ついに出動した10名の精鋭は、まずミサイルを撃った実行犯をケニアで始末し、インドネシアの拠点に籠るアジーズたちに迫った。アジーズの兵力は100名ほどのムジャヒディン、T-90戦車も持っている。これに精鋭たちはC-130から降下して襲い掛かるのだが・・・。

 

 傭兵部隊の装備の選び方、戦い方、いざという時のプランBなどはとてもリアル。ウクライナで活躍している対戦車ミサイル<ジャベリン>も登場する。この作者、なかなか読ませますね。もっと探してみましょう。