新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

スバールバル諸島、1983

 本書はまだ冷戦期の1983年に、英国の軍事スリラー作家リチャード・コックスが発表したもの。作者は予備役のパラシュート部隊の少佐、パイロット資格もあり、サンデータイムズやデーリーテレグラフの記者をしていたらしい。軍事紛争エリアを実際に取材した経験から、リアリティのあるフィクションを得意としている。

 

 本書の舞台はノルウェースバールバル諸島、北極に一番近い島のひとつで冬には4ヵ月ほど太陽が昇らない。主島スピッツベルゲンにのみ人が住んでいるが、ここはソ連ノルウェーの共同統治である。北極から地球儀を見るとわかるが、北極海を隔てて米国(アラスカ州)とソ連は隣接している。いわば冷戦の両勢力が直接対峙するエリアなのだ。炭鉱などの産業があり、実際はノルウェー人よりもソ連人の方が多く暮らしている。

 

 ある冬の日、ソ連軍は共同統治の協定を破り特殊部隊(スペッツナズ)を派遣、強力なレーダー基地を設置しようとする。ここにソ連のレーダーが配置されると北極圏での米ソ対立のパワーバランスが崩れる。米軍は英国の協力も得て、レーダー基地破壊作戦を決行する。

 

 大軍が展開できないので、両陣営は少数の精鋭部隊を送り込む。ソ連軍の前線指揮官マカロフ大佐も、米軍デルタフォースのピータースン中佐も外国の紛争地域で活躍したこともあるタフガイ。各々1020名ほどの部隊を率いて作戦にあたる。面白いのは妻の妊娠が分かったばかりのピータースン中佐だけでなく12歳の息子を持つマカロフ大佐も、とても子煩悩で恐妻家に描かれていること。冷徹な指揮官である2人ともが、家庭のこととなると普通人以上に悩む。

 

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 また両陣営のインテリジェンスの戦いも、詳しく描かれる。米英軍は偽装したノルウェー漁船で、ピータースン中佐の1隊をスピッツベルゲンに運ぶ。ソ連軍の諜報機関英米軍がどのルートからレーダー基地攻撃に来るか、米軍高官の秘書を操って探ろうとする。オスロブリュッセル、ロンドンでの諜報・防諜の戦いと両陣営の特殊部隊の活動が並行して描かれる。加えて現地の厳しすぎる自然環境の問題もある。冬のスバールバル諸島は、暗く氷雪に閉ざされ、海に落ちれば即死するという厳しさ。

 

 450ページの大作で特殊部隊同士の戦いを期待して読んだのですが、作戦遂行のための準備や部隊統率の部分が長く戦闘アクションは短かったです。まあ、これもリアルというべきですが。